気候変動・自然関連課題への取組み(TCFD・TNFD提言に基づく開示)

気候変動・自然関連課題への取組み

当金庫は、農林水産業にかかわる皆さま、地域の皆さまからお預かりしたJA貯金やJF貯金を原資に会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに国内外で多様な投融資を行っています。そのため、当金庫はバリューチェーンの上流・下流の双方において自然と密接な関係性があると言え、気候・自然関連のリスク管理と機会を捕捉するための取組みは、当金庫の事業運営や組織基盤の持続可能性に直結すると認識しています。

気候と自然は相関関係にあり、これらに関連するリスクや機会への取組みは一体不可分であることを踏まえ、当金庫では気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言および自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言に基づき気候・自然の一体的な開示に取り組んでいます。

ガバナンス

気候変動・自然関連課題への取組み
  • 気候
  • 自然

当金庫では、気候・自然を含む環境・社会課題への対応を理事会傘下のサステナブル協議会をはじめとする経営会議で協議のうえ、必要に応じて理事会、経営管理委員会へ付議・報告しています。また、サステナビリティ統括責任者として、CO-CSuO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を配置しています。
気候・自然関連課題への対応については、経営課題として日々の事業活動のなかで取り組んでいます。

先住民族・地域社会とのエンゲージメント
  • 自然

当金庫では、事業活動における人権尊重にかかる基本姿勢を明確化し、具体的な取組みを推進するための方針として、理事会において「人権方針」を定めています。本方針に基づく人権影響評価、「投融資における環境・社会への配慮にかかる取組方針」や赤道原則に基づく対応等、投融資をはじめとした事業活動において、先住民族や地域住民への負の影響を防止・軽減するための体制を構築しています。TNFDによる各種ガイダンスや、当金庫の自然関連の依存・インパクトおよびリスクと機会の特定を踏まえ、今後ステークホルダーエンゲージメントを強化していく必要性を認識しています。

戦略

全体戦略:環境課題解決に向けた基本方針
  • 気候
  • 自然

当金庫では理事会において「環境方針」を定め、事業活動を通じて気候変動や生物多様性といった環境課題の解決に貢献していくこと、事業活動における環境負荷を低減していくことを定めています。
また、パーパス実現のための重要課題や中期ビジョン(2030年のありたい姿)において、気候変動や生物多様性への対応を位置づけています。農林水産業や人々の暮らしを持続的なものとしていくために、これら環境課題の同時解決に向けて金融機関として貢献する取組みを推進していきます。

リスクと機会の認識
  • 気候
  • 自然

気候関連のリスクは移行リスクと物理的リスクに分けられます。移行リスクは政策や市場等の変化に伴う与信コストの増加等、脱炭素に向けた移行の過程で顕在化するリスクであり、物理的リスクは洪水等の異常気象の増加などの急性リスク、長期的高温の継続による農業や漁業への影響等の慢性リスクに分類されます。
また、自然関連のリスクは、生物多様性の損失や気候変動など、自然環境の変化が経済や金融に及ぼす潜在的な影響のことを指します。自然環境の変化は、気候の変化を含む生態系サービスの低下や政策・消費行動の変化等を通じ、気候変動の原因や影響と相互に関連しながら金融システムにも影響を及ぼします。
気候・自然関連課題は短期~中長期的に認識されるリスクであるとともに、その解決に向けた対応はビジネス機会でもあります。脱炭素社会・自然と共生する社会に向けた移行(トランジション)をファイナンスをはじめとしたソリューションで後押ししていくことで、金融機関としてのビジネス機会の獲得に努めています。

ネットゼロに向けた取組みの全体像
  • 気候

当金庫グループは、深刻化する気候変動への対応として温室効果ガス(GHG)排出量の2050年ネットゼロ実現を目指しています。その一環として当金庫は「Net-Zero.Banking.Alliance(NZBA)」※に加盟し、投融資先等のGHG排出量削減にかかる目標設定およびエンゲージメントをはじめとする各種取組みを進めています。関連する一連の取組みについては「2050年ネットゼロに向けた移行計画」において整理・体系化しています。

※「Glasgow.Financial.Alliance.for.Net.Zero(GFANZ)」傘下で、2050年までに投融資ポートフォリオを通じた温室効果ガス排出量ネットゼロを目指す銀行間の国際的なイニシアティブ

2050年ネット・ゼロに向けた移行計画

2050年ネット・ゼロに向けたロードマップ

投融資先等のGHG排出量削減
  • 気候

投融資先のGHG排出量削減

当金庫は、NZBAが定める高排出セクター(電力、石油・ガス、鉄鋼、石炭、農業、不動産、運輸、セメント、アルミニウムの9業種)について、融資ポートフォリオにおける排出量削減目標を順次設定しています。加えて、投融資ポートフォリオのうち投資資産の占める割合の重要性に鑑み、機関投資家向けのネットゼロイニシアティブの枠組等を参考のうえ、投資ポートフォリオの排出量削減目標も設定しています。

融資ポートフォリオ

当金庫では2023年3月のNZBA加盟と同時に電力セクターの目標を設定しており、2024年3月には追加で石油・ガス、石炭、鉄鋼セクターの目標を公表しています。
目標の達成に向けて、融資先へのエンゲージメントを推進しています。気候変動に伴うリスク認識等に基づいて、現状や課題、対応状況等について融資先と対話を行い、それらを踏まえたソリューションの開発・提供に取り組んでいます。
今後もポートフォリオにおける融資残高やGHG排出量等の観点から、目標設定やアプローチについて検討していきます。特に当金庫の事業基盤である「農業」セクターに関しては、農業・食品にかかる資材、生産、加工・流通のバリューチェーンを俯瞰したアプローチにより、目標設定の対象領域等の整理を進めていきます。

融資先へのエンゲージメントの概要

融資先ごとの状況や課題に応じて、ソリューションを提供

投資ポートフォリオ

投資ポートフォリオについては、株式・社債を対象として排出量削減目標を設定しています。当金庫の投資ポートフォリオはその大宗がファンドを通じた間接投資であることを踏まえ、委託運用会社を主たるエンゲージメント先として働きかけを行なっています。今後も当金庫におけるGHG計測実務の進展等を踏まえ、目標の対象とする投資資産クラスを拡げていきます。

会員と一体となった森林由来CO2吸収

全国の森林組合における目標をベースとした施業※面積見通しを踏まえ、森林由来のCO2吸収目標「2030年度時点で900万tCO2/年」を設定しています。
森林はCO2吸収や生物多様性を保全するうえで重要な役割を担っている一方で、立木価格の低迷や再造林にかかるコスト、林業の担い手確保といった様々な課題を抱えています。当金庫はCO2吸収量確保に向けて、森林組合における持続可能な森林施業を支援しています。

※ 新植(再造林)・下刈り・除伐・間伐・主伐などの森林管理

当金庫グループ拠点のGHG排出量削減

当金庫グループの拠点から排出される GHG については、2030年度までのネットゼロを目指します。目標達成に向けて、入居ビルにおける再生可能エネルギー等の導入および省エネ推進に取り組んでいます。

気候関連のリスク評価とシナリオ分析
  • 気候

セクター別のリスク評価を踏まえ、気候変動に伴うリスクの与信ポートフォリオ等に及ぼす影響のシナリオ分析を実施しています。

移行リスク 物理的リスク
急性リスク 慢性リスク
対象セクター・分析範囲等
  • 「電力」「石油・ガス・石炭」「食品・農業」「飲料」「化学」
  • 国内外融資先の重要拠点
  • 差入れを受けている担保不動産
  • 当金庫グループ拠点
  • 農業:稲作、畜産(生乳・肉牛)
  • 漁業(かつお)
シナリオ
  • NGFS「Current Policies」「Delayed Transition」「Net Zero 2050」
  • IEA、FAOが公表するシナリオ等
  • IPCC RCP2.6 およびRCP8.5
  • IPCC RCP2.6 およびRCP8.5
分析内容
  • 上記セクターについて、脱炭素化の進行による2050年までの与信コストの変化を分析
  • 上記拠点等について、洪水被害による影響を分析
  • 気温や海面水温の上昇を含む気候変動が生産者・漁業者収入に与える影響等を分析
結果
  • 2050年までの単年度で約30~220億円の与信コスト増加(与信ポートフォリオに与える影響については限定的)
  • 2100年までに累計で230億円程度の与信コスト増加・資産毀損(影響は限定的)
  • 気候変動の影響により収⼊は減少するものの、適応策導⼊により減少幅を抑制することが可能

自然関連のリスク評価とシナリオ分析
  • 自然

当金庫では、自然関連のリスクと機会を捉えるために、事業会社向け投融資ポートフォリオ全般の依存とインパクトの分析、および試行的なシナリオ分析を実施しました。
その結果として、当金庫の基盤である農林水産業に深く関連する食品関連セクターや投融資額が相対的に大きい電力セクターなどにおける依存とインパクトが比較的高いことを確認しました。

自然関連の機会を捕捉するための取組み
  • 自然

自然関連のエンゲージメント

融資先に対して、自然資本・生物多様性の重要性や将来的な変化に伴うリスク認識等を踏まえたうえで、現状や課題等について対話を行いつつ、優先課題に基づいたソリューションの企画・提案を実施しています。その一環として、当金庫グループの農林中金総合研究所は、TNFD 開示支援や自然関連のリスク管理戦略の構築支援などのソリューションを提供しています。

金融機関とのパートナーシップ

当金庫は、2023年2月に株式会社三井住友フィナンシャルグループ、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社、株式会社日本政策投資銀行とネイチャーポジティブ金融アライアンス(Finance Alliance for Nature Positive Solutions = FANPS)を設立しました。2024年3月には TNFD 対応状況にかかる簡易診断ツールの提供やネイチャーポジティブに資するソリューションカタログを公表しました。今後、企業のネイチャーポジティブへの転換を支援する観点から4社で連携した取組みを順次展開しています。

リスク管理(リスクとインパクト管理)

リスク管理の基本方針
  • 気候
  • 自然

当金庫は、全社的なリスク管理を適切に実施するため、認識すべきリスクの種類や管理体制・手法などリスク管理の基本的な体系を定めた「リスクマネジメント基本方針」を理事会で策定し、リスク管理態勢の普段の高度化に取り組んでいます。本方針に基づき当金庫が管理対象とする主なリスクとしては、「信用リスク」、「市場リスク」、「流動性リスク」、「モデルリスク」、「オペレーショナル・リスク」が挙げられ、気候・自然関連リスクを含む環境・社会リスクについても、これら各リスクカテゴリーの下で個々のリスク特性に応じて管理・コントロールを行うこととしています。

リスクアペタイトフレームワーク

リスクアペタイトフレームワークに基づき、経営環境やリスク認識を踏まえたトップリスク(今後、特に留意すべきリスク事象)を選定し、想定する将来シナリオの分析を実施しています。
当金庫ではトップリスクとして「気候変動・生物多様性などサステナビリティ関連課題への対応」を選定しています。気候変動による脱炭素経済への移行に伴う当金庫ポートフォリオの座礁資産化や風水害等、自然資本・生物多様性の劣化は、当金庫やその基盤である農林水産業や地域の持続可能性にも甚大な影響を及ぼす可能性がある重要なリスクと認識しており、トップリスク選定を通じて当該リスク認識に対する組織内での目線を揃え、リスク管理体制の高度化を推進しています。

環境・社会リスク管理態勢の高度化
  • 気候
  • 自然

当金庫では、投融資に伴う気候および自然関連リスクについて、環境・社会リスク管理(ESRM)態勢のもと、投融資フロントにおける環境・社会リスクの評価・判断に加え、リスク管理部門によるリスクコントロールや牽制機能、および経営による意思決定が必要な場合のエスカレーションの枠組みを構築しています。今後、ESRM運用の高度化に段階的に取り組み、統合的リスク管理との一体的な運用を目指します。

また、環境・社会課題解決に向けた基本方針として「環境方針」・「人権方針」を制定しているとともに、環境・社会に重大な負の影響を与える可能性がある事業への投融資における環境・社会配慮の取組方針を定め、プライオリティーに応じ適切なリスク管理を行っています。
さらに、当金庫では赤道原則を採択し、大規模な開発プロジェクトへ融資する際に当該プロジェクトが自然環境や地域社会に対して適切な配慮がなされているかを確認(モニタリング)しています。

リスク管理におけるESGインテグレーション

与信先の信用力評価にかかる内部格付制度において、気候変動にかかる高移行リスクセクターを中心とした一部セクターに属する先については、セクターに応じた環境・社会リスク要素への対応状況を把握するツールである「ESリスクチェックシート」の活用等により定性的な評価要素として考慮する等、信用リスク管理との一体的な運用を進めています。本取組みの対象セクターについては、外部環境を踏まえて見直し・拡大を検討していきます。

指標と目標

気候関連の指標・目標
  • 気候

ネットゼロに向けた移行計画において、気候関連の指標・目標を整理しています。

自然関連の指標・目標
  • 自然

当金庫ポートフォリオにおける自然への依存・インパクトに関連するエクスポージャーや自然関連のフットプリント指標を試行的に算定・開示しています。

Climate & Nature レポート

当金庫の気候・自然関連の取組詳細については、Climate&Natureレポート2024をご参照ください。

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