ごあいさつ
みなさまには、平素より当金庫の業務に関し、多大なるご支援を賜り、厚く御礼申しあげます。
協同組織中央機関として果たす基本的役割
当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。
さらに、JA(農協)、JF(漁協)の信用事業(系統信用事業)をサポートするための施策の企画・展開や、人材育成、業務インフラの提供等、さまざまなサービスを提供しています。また、関係法令等に基づき、系統信用事業における指導業務も担っており、JAバンク、JFマリンバンクのセーフティネット構築とその運営に努めています。引き続き、系統信用事業の信頼性向上に取り組むとともに、系統信用事業の強化・拡大を実現する重要な役割を担ってまいります。
食農バリューチェーン全体へのサポート
昨今の世界情勢の不安定化や気候変動、人口増加等により、食料、エネルギーや原材料等の国際価格は高騰し、国際社会において食料安全保障が共通の最重要課題になっています。こうしたなか、穀物や肥料・飼料・原料などを輸入に依存している日本においては、農業生産基盤が大きなダメージを受け、食料安定供給リスクが顕在化している状況下にあります。当金庫では、食農における、“川上”の生産(農林水産業者)から、食品に関連する産業(加工・流通・外食等)を経て、“川下”である国内外の消費に至るまで、また全体の起点である地域を加えた「食農バリューチェーン」全体のステークホルダーのみなさまに対して、最大限のサポートを継続してまいります。
これら取組みを通じて、当金庫は、JAバンク、JFマリンバンク、JForestグループとともに、協同組合ならではの役割・機能を発揮しつつ、みなさまから安心・信頼される金融機関・組織を目指していくとともに、農林水産業・農山漁村の振興へ貢献してまいります。
最後になりますが、JAバンク、JFマリンバンク、JForestグループおよび当金庫を、これまで以上にお引き立て賜りますよう、お願い申しあげます。
2023年7月

理事長メッセージ

2022年は、新型コロナウイルス感染症の影響緩和による需給のひっ迫に加えて、国際情勢の変化による影響で世界的に物価上昇が加速しました。農林水産業では、元々の担い手不足や農地の減少等により構造的に生産力が弱っていたところに、新型コロナウイルスによる需要の弱まり、さらに今回の肥料・飼料・燃料といういわゆる「3料高」として生産資材価格高騰の影響が加わりました。生産者は農畜産物への販売価格転嫁は難しく、日本の農林水産業に多大なる影響を与えています。当金庫としては、農林水産業を礎とする金融機関として、金融・非金融の両面からしっかりと役割を果たしていきます。
さて、当金庫は「持てるすべてを『いのち』に向けて。ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます。」というパーパスを2019年から掲げています。これは、私たちの志を凝縮した言葉であり、私たちが目指すものであり、社会に対する約束事であります。
このパーパスを実現するために、当金庫は2つの中長期目標を掲げています。一つは「投融資先等の温室効果ガス排出量削減、2050年ネットゼロ」、もう一つは「農林水産業者所得の増加」です。いずれも当金庫のパーパス実現に向けて不可欠な取組みであると考えています。

農林中央金庫の目指す姿

中長期目標

この中長期目標を達成するために五つの取組事項を置きました。「地球環境への貢献」「農林水産業・地域への貢献」「会員の経営基盤強化」「持続可能な財務・収益基盤の確保」「組織の活力最大化」です。
この取組事項のイメージは、一番上に農林水産業が成立するうえで欠かせない「地球環境」があり、二つ目の層には「農林水産業と、そこに暮らしている人と地域」が存在し、三つ目の層には「農漁協や森林組合などの当金庫の会員」の存在があります。四つ目には「会員」を支えられる組織であるように当金庫の財務・収益基盤を強固なものにしていくこと。そして、そのような組織となるために当金庫の人材力を作るということが五つ目です。この五つについて、さまざまなチャレンジをして、取組んでいくということに尽きると思っています。2022年度に実施した取組みのうち何点か特徴的なものをご紹介します。
気候変動対応の強化
当金庫では、気候変動への対応を進めるにあたり「2050年ネットゼロ」にコミットし、あわせて、銀行間の国際的なイニシアティブ「Net-Zero Banking Alliance(NZBA)」に加盟しました。まずは、投資および融資ポートフォリオに具体的な目標を設定し、投融資先とのエンゲージメントを通じて、トランジションを促進してまいります。
そして、当金庫拠点のGHG排出量削減については2030年度までのネットゼロを掲げています。省エネへの推進や再生可能エネルギーへの転換等を進め、排出量の削減を進めてまいります。
また、自然界で多くの温室効果ガスを吸収する役目を果たすのは森林と海です。
当金庫としては会員である森林組合系統と一体で森林由来のCO2吸収量を確保するため、2030年度でCO2吸収量を年間900万トンとする目標値を掲げました。森林は、CO2吸収や生物多様性を保全するうえで重要な役割を担っている一方、立木価格の低迷や再造林を行うためのコスト、林業の担い手の減少といったさまざまな課題を抱えています。当金庫では、このような森林・林業に関わる川上から川下の課題解決に向けた取組み、例えば、農中森力基金や林業労働安全性向上対策事業等を通じて、森林施業面積目標、森林吸収目標の達成を目指してまいります。
また、海の分野では、2022年5月に鳥取県、鳥取県漁業協同組合とともに「ブルーカーボンプロジェクト」を立ち上げました。温暖化等によって増殖したムラサキウニによる食害から藻場を守る取組みです。ムラサキウニを採取、畜養する体制を構築することで収入を確保しながら、温室効果ガスの削減に寄与する藻場の回復を目指しています。
農林水産業者所得の増加
農林水産業の課題を考えた際に、その根幹は「所得」であると考え、中長期目標の一つに「農林水産業者所得の増加」を設定しました。
一金融機関でできることには限界がありますが、当金庫でアプローチできることとして、まず農業分野において、取引先である農業者の利益や成長に向けた人材投資、設備投資などを「付加価値額」として定義し、農業者の所得増加額を測る指標として計測を開始しました。
JAバンクにおける担い手の経営課題に対するコンサルティング活動は、2022年度で300件超の実績となりました。課題解決に向けたソリューションの提案で終わることなく、継続して実施状況を確認するとともに、実現に向けたサポートまで一貫して対応していることが特徴です。
生産資材価格の高騰により、農林水産業を取り巻く環境が非常に厳しい今、引き続き担い手の所得増加に寄与できるよう取り組んでまいります。
2022年を「ダイバーシティ元年」と位置付け
当金庫は2022年を「ダイバーシティ元年」と位置付け、なぜダイバーシティ推進が必要なのか、役職員に理解してもらうための研修や講演を積極的に開催しました。
新しい風を取り込みながら、個人の能力を最大限に引き出すことで、それらの組み合わせによって、事業の進化やイノベーションが生まれます。要素が多ければ多いほど組み合わせの数は増え、化学反応が起きる可能性も大きくなります。そのためのダイバーシティであると思っています。
また、2040年度までに女性管理者比率を30%にする目標を掲げています。2023年3月末時点では7.6%ですが、女性職員の活躍や成長を後押しするための取組みも実施しています。
当金庫が発展し、社会に支持されるような組織となるために、性別・年齢・国籍・障がいの有無等に囚われることなく、多様性の力を発揮し、一人ひとりが自主的・自律的・自発的に働き方を工夫し、育児や介護といったキャリア形成上のさまざまな制約を乗り越えながら、活躍・成長を続けていくことができるよう、引き続き取組みを進めてまいります。
創立100周年、次の時代に向けて種まきを、しっかり。
農林中央金庫は、2023年12月に創立100周年の節目を迎えます。関東大震災が起きた1923年12月、震災の混乱が冷めやらぬなか、「産業組合中央金庫」として産声をあげ、以来、100年の歴史を刻み、今日を迎えています。この間、時代の変遷とともに自己改革を遂げながら、幾多の試練や課題を乗り越えてきました。
重要なことは、単にこれまでを振り返るのではなく、これからの行く末を考えるきっかけにすることです。すなわち、「なぜ農林中金が100年間みなさまに支えられながらやってくることができたのか」、そのうえで、「この先どのように社会・地域・会員の役に立つ存在になっていくのか」、役職員で考え、次の時代に向けて種まきをしっかりやっていくことだと思っています。
一例を申し上げますと、2022年度には『Myパーパスプロジェクト』を始めました。役職員が「何のために・誰のために」働くのか、その意義を再認識するきっかけ提供を目的とする事業です。その1つに、役職員が手上げ方式で農家に出向いて農作業を手伝う取組み「JA援農支援隊」というものがあります。人手不足の農業現場に対し、労働力としてお手伝いをさせていただく(株)農協観光主催の事業なのですが、農林中金の職員が積極的に参加することで、組織の原点である農林水産業に直接触れ、体感することができる。そのことが、パーパスと自分の仕事とのつながりを理解するきっかけ提供になると考えています。実際に参加した職員からは「直に土に触れながら、農林中央金庫のパーパス、農業や地域の未来を考える貴重な時間であった」といった声が数多く聞かれています。
今後も、このような取組みを継続、注力することで、役職員には当金庫のパーパスに高いレベルで共感してもらい、次の100年に向けた組織づくり、人づくりの礎になっていってもらいたいと思います。
引き続き、当金庫の存在意義(パーパス)・中長期目標を意識し、より将来の持続可能性の強化につながる取組みを進めるとともに、経営計画の完遂に向けて歩みを進めてまいります。