トップメッセージ

ごあいさつ

 みなさまには、平素より当金庫の業務に関し、多大なるご支援を賜り、厚く御礼申しあげます。

 また、このたびの令和6年能登半島地震により被害を受けられた方々に対して、心よりお悔やみとお見舞いを申しあげますとともに、支援や復旧・復興にあたられている方々のご尽力に対して、深く敬意を表します。

 気候変動や世界的な人口増加、国際情勢の緊迫化等により、食料・エネルギー等の価格が高騰し、国際社会において食料安全保障リスクへの対応が共通の重要課題になっています。また、穀物や肥料・飼料などを輸入に依存している日本においては、生産資材価格が高止まりする一方、販売価格へのコストの転嫁が進まない等、農業経営に深刻な影響を及ぼしています。当金庫としては、JAバンク、JFマリンバンク、JForestグループとともに、協同組合ならではの役割・機能を発揮しながら、最大限のサポートに取り組むとともに、みなさまから安心・信頼される金融機関・組織を目指しながら、農林水産業・農山漁村の振興へ貢献してまいります。

 当金庫の重要な役割の一つは、会員のみなさまへの安定的な収益還元です。足元は、会員のみなさまのご理解をいただきながら、中長期的な収益力を強化すべく取り組んでいるところです。この役割をこれからも果たし、ステークホルダーのみなさまからの信頼を得られるよう最大限の努力をしてまいる所存です。

 最後になりますが、JAバンク、JFマリンバンク、JForestグループおよび当金庫を、これまで以上にお引き立て賜りますよう、お願い申しあげます。

2024年7月

写真:経営管理委員会会長 山野 徹,代表理事理事長 奥 和登(おく かずと)

農林中央金庫
経営管理委員会会長
山野 徹

農林中央金庫
代表理事理事長
奥 和登

理事長メッセージ

これまでの100年、
そしてこれからの100年に向けて
~農林水産業、会員、地球環境の未来に貢献~

写真:代表理事理事長 奥 和登(おく かずと)
写真:代表理事理事長 奥 和登(おく かずと)

コロナ禍を経て変わったこと
農林水産業は厳しさに直面

 昨年5月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行動制限がすべて解除されました。川端康成の小説「雪国」の冒頭に「トンネルを抜けると雪国」とありますが、私は、生成AIが躍動している未来の世界に、まるで時間をワープしてきたような感覚を持ちました。更に、30年あまり続いたデフレ経済、消費の縮み思考から、企業経営者のマインドも大きく変化してきたと感じています。2024年に入ってからは、日経平均株価が4万円を更新し、市場全体で活気も感じられています。一つには、円安によって企業業績が持ち上がっているということが挙げられますが、それが株価、更には足元のベアの動きにも結びついています。

 その一方で、農林水産業においてはここ数年で生産資材などが非常に値上がりするなど、厳しい環境が継続しています。ガソリンの価格は以前に比べれば多少落ち着いてきましたが、飼料や肥料は引き続き高止まり傾向にあるので、生産現場の状況は非常に苦しく、特に農林水産業者は、値上がりした部分の価格転嫁がなかなかままならないという厳しさが続いています。

農林水産業者を中心に、会員、
地球環境への対応こそが使命

 当金庫のステークホルダーの中心は農林水産業者です。こうした厳しい環境のなかで、当金庫として最大限のサポートに取り組むことはこれからも変わりません。農林水産業を持続可能なものにしていくには、まずもって担い手が必要であり、その担い手を増やしていくためには所得が上がっていかないといけません。そのため、当金庫は農林水産業者の所得向上を大きな目標として掲げています。この目標の達成に向けて、当金庫が直接関わることはもちろんですが、JA・JF・JForestなど、会員のみなさまを通じた間接的なアプローチもあります。そうなると、農林水産業者をいわば一緒に支えている会員のみなさまの経営基盤が安定することも大事になってきますので、当金庫は会員のみなさまに対して収益や様々な機能の還元、そして必要に応じたサポートを行っています。

 それから、もう一つ農林水産業を持続可能にするための要素として、気候をはじめとした地球環境が安定することも重要です。この点を踏まえて、当金庫は地球環境問題にも積極的に取り組んでいます。

 農林水産業者を中心に、そこを支える会員のみなさまがいて、そして根本には地球環境がある――ここへの対応こそが当金庫の使命です。

農林中央金庫のサステナブル経営
パーパスに向けて、中期ビジョンを羅針盤に

 当金庫はサステナブル経営に取り組んでいますが、単独で取り組んでいるという認識はありません。農林水産業者がいて、JA・JF・JForestなどの会員のみなさまがいて、そして会員を取り巻くグループ組織がいて、すべてが一体となって取り組んでいます。私自身、サステナブル経営を例えるならば、「グループ一体となって世の中に価値を提供し続けているか」という点を突き詰めていくことだと考えています。そして、その価値は何かというと、JAグループでいえば安心・安全な食べ物を消費者に届け続けることです。そのためには金融の力も必要ですし、金融以外の関係団体とも一緒になって様々な取組みを考え、実行していく必要があります。

 この前提のもとで、サステナブル経営は、私たちが掲げるパーパスに繋がるものですが、当金庫自身がまず中期的に目指すべき方向はどこにあるのか、これを考え、経営の羅針盤にしようということで「中期ビジョン」を策定し、2030年のありたい姿を5つ定めました。

 食を届けるためには農林水産業が持続可能であることが重要で、そのために環境問題に取り組む―――これをありたい姿の1番目として、地球環境や地域に対して環境・社会・経済的にポジティブなインパクトを創出する取組みをしていくことを掲げました。

 それから、農林水産業者にとって後継者が出てくるかどうかは、所得の向上がカギです。そこで、ありたい姿の2番目には農林水産業者の所得向上をはじめ、農林水産業や地域の持続的な発展を目指すことを掲げました。引き続き担い手へのコンサルティングに取り組みますが、これからは可能な限りデータを使った“見える化”に取り組みたいと考えています。たとえば、農業には匠の技という暗黙知の世界がありますが、データで“見える化”することでおいしさの根源を知ることができるかもしれませんし、先ほどの地球環境に絡めて、科学的に肥料の使用を最適化する方法を提案するようなことも考えられます。こうした取組みが当金庫だけではなくJAなど会員のみなさまにも広がっていくように連携を進めていきます。

 また、コンサルティングだけではなく、食のバリューチェーンを意識した取組みにも引き続き注力していきます。農業には様々な技術を適用できる領域がたくさんあり、労働力不足にはロボティックスやスマート農業をいかに取り入れられるかが大事です。加えて、農作物を作り、届けるためには、流通も重要となってきます。これらを担う企業と当金庫は融資取引などで繋がっていますので、作ったものをいかに消費者まで届けていくか、様々なソリューションを検討し実行していきます。更に、バリューチェーンを海外まで広げることも必要です。人口減少もあり、日本国内だけの消費を考えていたのでは限界があります。今は日本酒や海産物が輸出品として注目されていますが、これからは海外で必要とされるものを国内でいかに作り販売していくかも重要となりますので、そこをサポートしていきます。

 ありたい姿の3番目には、JAとJFの事業運営をしっかりサポートしていくことを掲げました。JAであれば、地域の事業者や農業者から選ばれる存在になって「JAっていいね」と言っていただけるように、私たちも一緒に取り組むということです。そのためにはJA自身の顧客対応力も必要ですし、昨今のデジタル化の潮流に遅れをとらないことも大事です。このために私たちが「一緒に農業者を支えられる組織体になりましょう」というメッセージを送り、ともに汗をかいていくことだと考えています。

 ここまでの3つを実現するために当金庫に必要なものは、収益力と色々な課題を解決する力をしっかりつけることです。とりわけ収益力は大きなポイントですから、ここをありたい姿の4番目に置きました。そして、収益力を上げるのはまさに組織の力、人の力ですが、職員の思いや「やろう」とする気持ちをいかに引き出せるかが組織の土台として大切な要素です。この点を5番目に置いています。

 今は2030年を展望していますが、環境などを含めて、今後も変わりうるものだと思っています。そういう意味で、ビジョンは抽象的なものかもしれませんが、ありたい姿を持っていないと道は開けないと考え、言葉で表現して掲げることにしました。

ダイバーシティは強さ
職員の働きがいを実現するために

 当金庫の職員は、農林水産業や地球環境から投資にいたるまで幅広い業務にあたることもあり、バランスのとれた人材が多く、この点は当金庫職員の大きな魅力です。一方で、バランスが取れているがゆえに、「自分が」と自ら先頭に立って突き進むような雰囲気はあまりないかもしれません。私は、ダイバーシティ(多様性)は強さだと本気で考えていて、組織のなかに様々な人がいることが大事だと思っています。やるべきこととやり方が決まっている場合には、同質な組織の方が強いですが、何が起きるか分からない、どうなるか分からない時には、皆が共通した“ありたい姿”を目指しながらも、多様な人材が様々な感じ方、考え方をするなかで、その時の状況に合わせて進むべき道を考えていく、そのことが重要だと考えています。ダイバーシティの拡大はこれからも注力したい取組みの一つです。

 また、何かの役に立ちたい、農林水産業の役に立ちたいという思いを強く持って働いている職員が多い点も当金庫の魅力です。職員の働きがいの根幹は給与など労働の対価だけではなく、やりがいも組み合わさったところにあって、自分が関わりたい領域を持っているということだと思います。職員一人ひとりがその思いを実現できるよう、しっかり後押ししていきます。

目指したいフラットな組織
苦しいと感じるのは成長の証と受け止める

 ティール組織という考え方があり、組織は7段階で進化していくと言われています。その6番目はいわゆるフラットな組織のことで、価値観や組織の方向性が共有されており、色々な人がいて、ボトムアップで様々な意見が出てくる状態とされています。私はフラットで、かつ対話できる組織が良いと常に思っていて、この6番目の段階をどこまで目指せるかと考えて、色々試してはいますが、簡単ではありません。

 大なり小なり様々ですが、こうした困難、あるいは苦しいと感じる場面に直面したとき、私は、フリードリッヒ・フォン・シラーというドイツの思想家の「人生は苦しいと思った時が上り坂」という言葉を思い出し、苦しいと感じるのは成長している証拠であると受け止めるように心がけています。また、ジュール・ベルヌの「想像できることは実現できる」という言葉からも活力をもらいながら、思い描く組織像の実現を目指したいと考えています。

100年の歴史で姿を変えてきた役割
難局を乗り切り、次の100年に向けて

 最後に、当金庫は、2023年12月に創立100周年を迎えました。もともと当金庫は50年の時限立法からスタートしたという歴史があります。資金不足にあえぐ農業者に向けて、農業のためのお金を融通する目的を持って誕生しました。そこから経済成長などを経て、当金庫の役割には「運用して会員のみなさまに還元する」というものが加わり、これらを果たし続けていくべく、時限性がなくなったという経緯です。そういう歴史を経た100周年だったので、私としては非常に感慨深い思いがあるとともに、「この先の100年でどのようなことに取り組んでいくか」を考える1年でした。

 運用して還元するという役割を果たしていくため、当金庫は機関投資家として国際分散投資を行うビジネスモデルを確立してきました。特にリーマンショック以降は、発行体の信用力があり、また流動性も高い債券の運用を中心に行ってきましたが、ここ2~3年は米国を中心とした海外金利の上昇の影響を大きく受けてきました。当金庫の健全性という点では、このような状況下でも様々な規制水準のクリアはもちろんのこと、他の金融機関対比でも高い自己資本比率を維持することができています。

写真:代表理事理事長 奥 和登(おく かずと)

 一方で、これからも当金庫が役割を果たしていくためには、中長期的な収益性の強化が必要という認識のもと、足元で投資ポートフォリオの改善に取り組んでいます。これをしっかりと実行していくため、現在会員のみなさまに対して当金庫の資本増強に向けたご協力をお願いしています。

 創立100周年という節目で、会員のみなさまの期待に十分応えられないのは大変心苦しく、責任を痛感しています。私自身としては、この難局をしっかりと乗り切り、次の100年に向けた責務を果たしていく所存です。

写真:代表理事理事長 奥 和登(おく かずと)

2024年7月
代表理事理事長 奥 和登

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