日本の林業が抱える課題
わが国は、国土面積の約3分の2を森林面積(2,505万ヘクタール)が占め、総森林蓄積(森林を構成する立木の体積)は約52億㎥に及ぶ森林大国です。日本の森林は戦後造林された人工林が中心で、約半数が一般的な主伐期にあたる50年超を迎えつつあり、「伐って植えること」が必要な状況となっています。 こうした状態を招いている最大の要因は、「森林所有者が再生産(再造林)したくてもできないサイクルに陥っている現実」、つまり、立木価格の低迷や再造林にかかるコスト増、担い手の確保ができないこと等にあります。
気候変動の緩和・適応に貢献する林業

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トピック
国産木材の利活用を拡大する「ウッドソリューション・ネットワーク」
ウッドソリューション・ネットワーク(WSN)には、林業生産者団体や、木の加工・流通に従事する製材会社、商社、ゼネコン、ハウスメーカー等、木に関わる31社・団体が参画しています(2021年6月現在)。
WSNの活動は第2クール(2019年〜2022年)に入りました。第1クールに制作した非住宅木造・内装木質化推進アプローチブックを活用した普及活動や、時流に沿った新たなテーマ(森林環境譲与税やESG投資・SDGs)の採択等、参加団体とともに木材利用拡大に向けた各種取組みを推進しています。
林業の労働安全性を向上させる 「林業安全教育360°VR」
2020年度に「林業労働安全性向上対策事業」を拡充し、教育ツールとして「林業安全教育360°VR チェーンソー作業 他人伐倒編」を導入しました。2021年度には、利用者のみなさまからの声を踏まえ、第二弾として、「かかり木処理編」と「キックバック編」を制作しました。

VRイメージ
再造林にかかる期間短縮・コスト削減を実現する「低コスト再造林プロジェクト」
低コスト再造林プロジェクトは、①早生樹の活用、②コンテナ大苗による一体作業、③植林の疎植をポイントとしています。全国3カ所のモデル施業地(長野県・根羽村森林組合、広島県・三次地方森林組合、宮崎県・都城森林組合)で実証実験を開始しました。この取組みで得られた成果を全国に波及させることで、主伐後の再造林を促進していきます。
ポイント | 内容 | |
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①早生樹の活用 | スギやヒノキに比べて成長量が大きな樹種(今回はコウヨウザン)を活用 | 伐期を短縮 50年→30年 |
②コンテナ大苗による一体作業 | コンテナ大苗を活用した伐採・造林の一体作業で地拵えの省略、下刈り回数の削減 | 作業期間を短縮 従来3〜4年→今回数ヵ月 |
③植林の疎植 | 一般的に3,000本/haの植林を、1,500本/haに植栽本数を絞り、短伐期で間伐作業を必要としない施業につなげる | 植栽本数を半減 従来3,000本/ha(本数多)→ 今回1,500本/ha(本数少) |

コンテナ大苗(コウヨウザン)
担当者の声
営業企画部
森林班佐藤 里穂

当金庫の森林部門は、各地域の森林組合系統のサポートを行っています。サポートは金融面に限ったものではなく、林業従事者の安全性向上や木材の利活用を拡大するネットワークづくりなどにも携わっています。林業の労働災害発生率は他産業と比べても高く、安全衛生対策は大きな課題です。そこで私たちは全国森林組合連合会と共同で「林業安全教育360°VR」を開発しました。奈良県森林組合連合会の協力のもと、実際に伐採した木をマネキンに激突させて撮影した実写映像を、11Kの高精細なVRで視聴することができます。視聴した方々からはリアリティをもって事故を学ぶことができると好評をいただいており、林野庁の「緑の雇用」事業や林業大学校、県・市町村・大学でも教育ツールとして活用されています。
林業は祖父母が植え、親が育て、子がようやく伐採するという長いサイクルを前提としており、常に次世代の未来を意識する考え方が根付いています。これは、SDGsやサステナビリティの考え方とも合致するものです。気候変動や災害対策などさまざまな社会課題の解決に貢献する産業であることを意識しながら、これからも森林や林業のサポートを積極的に行っていきます。