現場の声 JAしまね(島根県)

農業への貢献~県全体の農業振興への支援

地域の恵まれた自然を活かし、農業の多角化に取り組む 農事組合法人すがや 代表理事組合長 錦織 満(にしこおりみつる)様

JAしまねは、米・園芸・畜産を3本柱とする農業を推進しています。今回は、集落営農組合からの法人化を通じて、農業経営の多角化を進める島根県雲南(うんなん)市で、農事組合法人すがやの錦織満(にしこおりみつる)代表理事組合長に話を伺いました。

地域を守るべく会社を早期退職、農業専業に。そして法人化へ

平成22年に構成員28人で、農事組合法人すがやを設立。現在の経営面積は水田が24ha、園芸野菜が3haです。野菜はアスパラガス、アムスメロン、レタス、ピーマン、唐辛子、ニンニク、スイートコーン、ソバ、タマネギ、サトイモ、カボチャ、ミニトマトなど、約20品目を栽培しています。7年前の設立当初から園芸野菜の栽培を始め、現在では野菜の販売収入が3割を占めています。

農事組合法人すがやの前身は、ここ雲南市すがや地区の農家が集まった集落営農組合で、平成3年に発足。当時、私は会社に勤めながらの兼業農家で、農家それぞれのニーズといってもせいぜい機械の共同利用などどまりで、まだ法人化には至りませんでした。しかし、島根県では人口減少と農業の担い手不足が進み、住民約90人のすがや地区の将来についても真剣に考えなくてはならなくなりました。そんななか、県や市から法人化を勧められたり、研修会への参加をきっかけに、55歳で会社を早期退職。専業農家となって、本格的に集落営農組合の法人化に向けて話し合いを始めました。

1年間で36回もの会議を重ねて、法人化を決定したのは平成21年12月。地域農家34軒のうち、9割のみなさんが参加しました。その後、亡くなられたり、高齢ゆえにリタイアした方々から農地の委託を受けるなかで、期せずして地域のみなさんの方から法人化のメリットを感じていただけました。現在、当農事組合は、耕作面積およそ20haのうち約18haに利用権を設定。将来的には、すべての耕作地に利用権を設定する予定です。

雲南市は、標高400m以上で寒暖の差があり、菅谷川から流れる日本有数の名水など恵まれた環境にあります。農事組合法人すがやでは、その豊かな自然を活かし、環境にやさしい農産物作りを行っています。

少量多品目栽培と多彩な加工品の開発・販売による6次化の推進

法人化の目的は、“この地域にお金を落とすこと”です。当初から地域の農業の付加価値を高めるには、米の単作ではなく施設園芸が必要だと思っていたので、法人化してすぐサトイモや唐辛子などの栽培を始めました。とはいえ、約20品目の少量多品目栽培に落ち着いたのは、つい3~4年前のことです。野菜1品目だけの大量収穫では、米などと収穫時期が重なり、労力の負担が大きいと同時に、販路の確保も大変。試行錯誤の末、収穫時期をずらしながら、水稲育苗(いくびょう)後のハウスでメロン、またはスイートコーンの後にソバ、さらにニンニクといった2~3作で展開しています。

販路については、近隣の公益財団法人ふるさと村と連携しているほか、JAしまねの産直市場も大きな販路です。また、JAしまねは農家の初期投資リスクを軽減するために、米と主要野菜については事前買取契約を実施しており、当農事組合は昨年から新たにミニトマト「アンジェレ」の栽培も始めました。それと並行して、法人化後は唐辛子とニンニクの漬物、丸餅や煎餅など、加工品の開発・販売にも力を入れています。平成25年からは、酒造メーカーやJAしまねの協力のもと、日本酒づくりも始めました。

また、当農事組合は、主に米と野菜において、エコロジー栽培を行っています。これは、島根県が基準とする農薬と化学肥料の使用量を半分に抑えることで、県から「エコロジー農産物」としての認定を受けるものです。そこで平成24年に、最初は主食用のコシヒカリでエコロジー栽培を始めました。健全な稲を育てるには、種籾(たねもみ)の段階から消毒が必要なため通常は薬液を使用しますが、エコロジー栽培ではお湯に浸漬させる「温湯(おんとう)種子消毒」という方法で行います。当初は何も分からない状態でしたが、JAしまねから専用の消毒器を購入し、管理方法など技術的な指導を受けて、おかげさまでうまくいきました。

菅谷川の水など自然に恵まれたすがや地区で、エコロジー栽培によって生産された農産物と加工品は、自信を持ってみなさんにお勧めできる品質だと自負しています。

農事組合法人すがやは、酒米を栽培し、プライベートブランドで販売することができる「自己商標酒類卸売業免許」を取得。平成26年からは、日本酒「要四郎(ようしろう)」を発売中。こだわりの米「清流米」「たたら米」のほか、丸餅やういろうなどの加工品も、近隣の「道の駅」で販売されています。

将来に向けた基盤を固め、次世代に託す

法人化から7年。これから先の10~20年は、若い担い手に地域の未来を託すことになります。自分たちの世代がしっかりと“基盤づくり”を行わなければなりません。そこで、周辺農地の集約化を筆頭に、米主体の農業から多品目の野菜を生産する複合経営への転換、加工品の開発・販売などの6次化を推進してきました。と同時に、現在、当農事組合の水田の数が300枚にも及ぶといった農地の点在化が課題としてあり、行政による圃場整備についての話し合いが進んでいます。圃場整備というと単純に農業の大規模化や効率化に結び付けられがちですが、“点在している・狭い・効率化しにくい”田畑を所有する高齢者が、担い手不足ゆえに廃業し、その結果、農地が荒廃するという現実があります。地域を守るには、まず地元農家が農業を継続できるようにする。そのために圃場整備が必要なのです。

また、すがや地区がある島根県雲南市吉田町には、農業および商工業に関連する地域の自主組織が集まった吉田地区振興協議会があります。将来に向けた、農業におけるさらなる広域連携を目指して、今年6月から当農事組合を含む5つの農業自主組織の話し合いが始まります。この会議には、JAしまねのTAC(地域の農業担い手への訪問活動を行うJA担当者の愛称)も参加する予定です。

目下、雲南市における最大の問題は、少子高齢化。人口減少と農業担い手の減少を食い止めるには、県内の兼業・専業農家への働き掛けに加えて、県内外からの移住者の受け入れ態勢の整備が重要です。新規就農者の受け入れについては、県の地域定住財団やJAしまねなどから、手厚くフォローしていただいています。現在、当農事組合にも、将来を見据えて県外から2人の研修生が、当地で農業に取り組んでおり、大いに期待しています。

すがや地区の魅力は、何といっても自然です。平成30年からは、国の生産調整がなくなるなど、農業を取り巻く環境には常に不確定要素があります。よって、とにかく自分たちが何かしなければ周りは動きません。この恵まれた自然を活かし、環境にやさしいモノづくりを組合員全員で考え、周囲と連携しながら、楽しく農業を続けていきたい。ぜひ、県内外からも農業に関心のある方がいらっしゃいましたら、参加いただければと思いますね。

県外から研修中の澤畠夫妻は、昨年8月に当地で結婚し、現在はミニトマト「アンジェレ」の栽培管理を任されています。組合長を含む、周囲からのさまざまな支援が若い2人を支えています。(写真左から:JAしまね・上代敏雄(じょうだいとしお)担当課長、JAしまね・佐藤善雄(さとうよしお)中央営農経済センター長、吉田地区振興協議会・錦織靖雄(にしこおりやすお)会長、錦織満代表理事組合長、澤畠旭(さわはたあきら)さん・ひかるさんご夫妻、農林中央金庫・堀井輝彦(ほりいてるひこ)松江営業所長)

(取材日:平成29年5月)

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