農業への貢献~集落と担い手が支え合う地域農業のために
JAみな穂の管内は、耕地のほとんどが水田で、コシヒカリなどで有名な米どころです。農業の担い手が減少して専業農家がない集落が存在する一方で、若い担い手も着実に育っています。今回は、管内の入善町(にゅうぜんまち)で会社を一家で立ち上げ、地域の農業をけん引する(株)アグリたきもとの海道瑞穂(かいどうみずほ)代表取締役、ご両親である瀧本敏(たきもとさとし)取締役と瀧本みどり取締役に話を伺いました。
兼業農家から専業へ。周辺地域からの委託で100haを経営
「株式会社アグリたきもとは、平成22年3月に設立。当初は、私と両親の3人でスタートし、その後は夫と私の姉を含む4人が正社員として加わりました。設立時は、約15haで水稲とジャンボ西瓜を生産していましたが、現在の経営面積は100haで、うち60haが水稲、40haが大豆、0.2haでジャンボ西瓜を栽培しています。」(海道瑞穂代表取締役)
「農業を営んでいた義父が高齢となったため、会社勤めをしながら手伝っていた夫が、平成14年に 退職して平成15年に専業に。続いて、私が平成18年に勤めを辞めたのと同時に次女の瑞穂が20 歳で就農して、今の会社の核ができあがりました。専業になってみて分かったのは、むしろ兼業の 方が大変だったということ。平日は会社で働いたあとに農作業とか、週末に天気が悪くて作業でき なければ平日に有給休暇を取るような日々でしたから。」(瀧本みどり取締役)
「父親の代には、入善町で120年以上歴史がある特産物のジャンボ西瓜を中心に生産していまし た。ジャンボ西瓜は毎日の手入れが必要なため非常に手間がかかりますが、地域の名産であると 同時に、瀧本家の農業における原点でもあるのでやめるわけにはいきません。専業になるにあたっ ては、農業で生活できるぐらいは稼げるだろうと、それほど気負いはありませんでした。
周辺地域には、高齢者が多いわりに農業法人がなく、専業農家になると少しずつ農地を委託され るようになりました。そんななか、大型機械の設備投資や将来的な増員の可能性を考えて、法人化 した方が良いと決断。代表は娘に、と自然になりました。何より本人がしっかりと農業に取り組ん でいたし、これからの10~20年先を考えると、自分が代表ではないだろうと。」(瀧本敏取締役)
「子どもの頃から農業を手伝い、父が専業になると私もやるのが当たり前という環境のなかで、平成18年にデ ザイン専門学校を卒業してすぐに就農しました。その4年後に会社設立となった時、父に『これからは女性の時 代だ。女性だからできないとか、女性だからさせないということにはならない』と言われて社長になりました。 法人化したことで、さらに周囲からの信頼が得られたようで、農地の受託が増え続けた結果、現在の経営面積 100haに至ります。」(海道代表取締役)
“女性ならでは”のパワーを発揮する
「就農してすぐに父が腰を悪くして、1台しかない大型トラクターで私が作業する羽目に。とにかくやるしかな いと日々格闘していたら、家族3人の役割分担が自然な形で生まれてきました。現在は、父が資金計画や仕事全 体の流れを決め、それに沿って私が現場で作業をし、母は経理などを担当しています。
たぶん最初は、『あんなギャルっぽい娘に農業ができるわけない』と見ていた人もいると思います。でも、トラク ターやコンバインに乗り続け、夜中まで稲刈りして…と結果を出していくことで認めてもらえたんじゃないか な。『若い女性が大型機械に乗っていると、農業に未来があると感じるよ。だから、思い切りやってもらいたい』 と言っていただいたこともあります。
地域で女性の就農者が増え、私より年下の女性が大型機械を乗りこなしています。女性の方が扱いが丁寧なの で大型機械が長持ちする、という人もいるみたいですよ。」(海道代表取締役)
「親子でアグリたきもとをスタートしましたが、私たち夫婦はいつか次世代に継承して、若い力や女性の力を借 りていかなければなりません。そのためにも、農業への先入観“暗い・汚い・つらい”を払拭して、働きやすい環境 をつくりたい気持ちが強くありました。
私自身の義父母をみとった経験だったり、家族を介護しながら働く職員もいましたから、まず介護休暇制度を 導入したほか、会社の設立2年目にアルバイトの男性を社員として雇用したことがきっかけで、きちんと男女 別にしたトイレを作業場に建設。今年3月に建てた事務所には、女性のために着替えができる禁煙の休憩所も 設けました。施設の色にもこだわり、作業所の鉄骨はあえてピンクにしました。
こうした取組みが、思いがけず『平成27年度 農業の未来をつくる女性活躍経営体100選(WAP100)』に選定 され、『平成28年度 北陸農政局男女共同参画優良事例表彰』も受賞しました。発表会で同じ農業を営む女性か ら『力をもらいました。自分もできる範囲で夢をかなえていきたい』と声を掛けていただき、自分でも役に立て たと本当に嬉しく思いました。」(瀧本みどり取締役)
自由な発想でチャレンジを続ける
「いま振り返ってみて一番大変だったのは、会社を設立した直後です。平成22年3月21日に竜巻のような突風 が吹いて、育苗直前のハウス4棟全てが倒壊しました。急きょアルバイトを雇って、深夜まで突貫工事で育苗を やり直し、4月の田植えに間に合わせました。いま思うと、あのとき、改めて農業でやっていく覚悟ができたし、 おかげさまで、あれ以上のトラブルはその後ありません。」(瀧本敏取締役)
「むしろ近隣のみなさんに人的被害がなくて本当に良かった。その時のアルバイトがきっかけで社員になって もらった人もいます。兼業の時よりも家族が一つのことに取り組んだり、話し合うことも増え、専業を始めたこ とで、より互いを知れた気がします。」(瀧本みどり取締役)
「現場の仕事は一通りやってきましたが、これからは本当の意味で、会社を経営する社長にならなければなりません。実は毎月1回、税理士さんのもとに3人で通って、農業経営について研修を受けています。
農作物では、4年前に植え始めたブルーベリーが実り始めました。姉が栄養士の資格を持っているので、ジャム の加工など6次産業化にも挑戦してみたい。また、米のネット販売の準備も進めていて、パッケージなどもデザ イン専門学校で習得した技術を活かして、従来とは異なる女性らしいものに仕上げられたらと構想中です。
農業は大変だという先入観がありますが、結果を出せば認めてもらえます。むしろ成果を見せやすいのが農 業。自分の好きな時間はとりやすいし、トラクターのなかで自分で作曲した曲を音楽プレイヤーで聞きながら 農作業したり、自由な発想でチャレンジできる。私は農業を始めて可能性が広がったし、農業に興味がある若 い方にはぜひおすすめしますよ!」(海道代表取締役)
(取材日:平成29年5月)
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