復興支援
JF相馬双葉の管内では、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で操業の自粛を余儀なくされ、現在も漁法により週1~3回程度の試験操業に制限されています。同管内における復興への取組みの成果の一つとして、平成28年2月に相馬市の磯部水産加工施設が竣工しました。漁業者と水産加工業者が一体となったJF相馬双葉の取組みを紹介します。
漁業者、水産加工業者等が助け合いながら、地域の漁業を守る
「東日本大震災の津波で、JF相馬双葉管内の相馬市では470人もの住民が犠牲となり、当JFの施設は、松川浦以外の本所および6支所が全壊・流失しました。当管内の磯部地区は、水産加工業者が集積する地域でしたが、津波で加工会社6社全てが全壊・流失し、そのうちの1社が島寿雄(しま ひさお)理事長の会社でした。
水産業は、漁業者、仲買人、水産加工会社等が連携して初めて成り立ちます。そこで島理事長らと相談し、漁業者と水産加工業者等が互いに構成員となる相馬市磯部地区水産物流通加工業協同組合(以下、磯部加工組合)を設立。今年3月に磯部地区の名産である加工したコウナゴ製品を震災後初めて出荷しました。」(JF相馬双葉・渡部祐次郎(わたのべ ゆうじろう)参事)
「水産加工業に携わって30年以上になりますが、震災直後は途方に暮れました。それでも、『魚で食べていくしかない』という思いがありました。磯部加工組合の設立については、単独で事業を展開すれば儲けこそ大きいけれど、互いに津波で何もかも失った状態。だからこそ助け合ってどうにかしよう、と。水産加工業者である自分たちが協力すれば、地元漁業の復興も早まるとも考えました。」(磯部加工組合・島寿雄理事長)
「水産加工施設が完成した平成28年2月まで、コウナゴづくりから完全に離れていましたから、不安もありましたよ。同年3月に生産を開始するまでの1カ月間、機械整備等で工場内を毎日30,000歩以上、歩き回りました。納得いくコウナゴができあがり、震災以降から『待ってるよ』と言い続けてくれた取引先に送ったら、すぐに電話がかかってきて、泣きながら喜んでくれました。」(島理事長)
徹底した衛生管理と、全量検査の実施で“安全・安心”を確保
「“味”に加えて、自信があるのが衛生管理です。新しい加工施設では紫外線殺菌が可能な無菌室、全面抗菌剤フィルム張りの床、鮮度を保つ大型冷凍施設等を完備し、浜からコウナゴを工場内に運び、加工・梱包・出荷するまで一度も工場の外に出さず工程管理することにこだわりました。さらに、磯部加工組合から出荷する水産加工商品の最大の特徴は、放射性物質の全量検査を行っていることです。」(島理事長)
「農林中央金庫と行政の助成により、2台の放射能検査機を導入しました。魚を干すといった生産加工の過程で放射性セシウムの濃度が高くなる懸念を持つ消費者もいます。全量検査で水産加工品の安全性が確認できれば、福島の生魚全体の信頼性がより高まると思いました。
あの原発事故後、福島産に対する風評被害が続いています。今回、漁業者と水産加工業者が事業協同組合を設立する際は、成果が出た時の利益だけでなく、そうした風評被害リスクも分け合いましょう、という覚悟でした。」(渡部参事)
生かされた人間としての役割を果たし、地域の未来を次世代に託す
「衛生管理については、出荷するコウナゴの菌量300CFU/mlと既に高レベルですが、さらに国内トップレベルの菌量ゼロを目指したい。放射能全量検査とともに、徹底した安全管理をブランドとして展開します。
鮮度の維持や衛生管理などについて、漁業者のみなさんと定期的に勉強会を開くことで、消費者に付加価値の高い商品を提供しようという意識改革が進んでいます。」(島理事長)
「農林中央金庫の助成を受けて、PR活動を活発化するほか、地域のJAや生協など系統組織を通じて、販路の拡大にも取り組んでいます。残念ながら、あの原発事故以来、地域の小学校給食に地元の魚を供給できません。今回、最終製品である水産加工品の全量検査を行うことで、安心して地元の食材を食べてもらうきっかけになれば、と思っています。
当管内では、あの震災で、組合長をはじめ島理事長や私を含めて多くの人が家族を失いました。生かされた人間には果たすべき役割がある、とこれまで頑張ってきました。しかし、我々は“つなぎ役”にすぎません。復興への取組みは長い時間がかかります。しっかりと地域の水産業の基盤をつくり直し次世代に託したい、と思っています。」(渡部参事)
(取材日:平成28年6月)
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