現場の声 JA東京みらい(東京都)

農業への貢献~都市近郊農業への支援

“東京の野菜を、東京に住む人へ。”をコンセプトに“都産都消”を広げる 関ファーム 関健一(せきけんいち)様

JA東京みらいの管内は、都心に近い住宅地で消費者も多く、多品種の野菜等が生産されています。そこで今回は、東京の田園風景が残る清瀬市で代々農業を営み、主力野菜として「COCOTOMATO」のブランド名でトマトを都心部にも出荷する関ファームの関健一(せきけんいち)さんに話を伺いました。

江戸時代から農業を営む17代目

現在、関ファームでの作付けは、水菜が16.5アール、トマト(*)が10アール、ミニトマト(*)が3.3アール(*いずれも溶液栽培)で、土耕のトマトが6.6アールです。水菜は年に6.5回転は作付けするので、延べ作付面積は100アール以上になります。僕とおふくろ以外、4人のスタッフで運営しています。

うちは、一番古い記録によると、約400年前の慶安(1648~1651年)から清瀬市で代々農業を営み、確か僕で17代目です。おやじの代には、清瀬市の特産であるニンジン・サトイモ・ホウレンソウ・ゴボウといった露地野菜を生産していましたが、冬季でも作物を安定出荷するため、平成14年に東京では初となる水菜のハウスを建設しました。その後、平成16年と平成19年にハウスを増設し、水菜の周年栽培を確立しました。ところが、そのタイミングでおやじが重病を患い、その時から将来的な農業経営を考え、単価が高く経営の安定も望めるトマトの栽培を始めるとともに、作付品目を絞りました。

トマト栽培を始めた当時は、100%市場流通への出荷でしたが、その翌年は〈市場流通〉と〈直売+市場外流通〉を50%ずつ、翌々年は〈直売+市場外流通〉を60~70%にして3年間データを取るなど試行錯誤を繰り返し、おやじとも相談しながら市場外流通を増やしていきました。現在は、ほぼ100%市場外流通で、主に大田市場の青果仲卸業者に出荷しています。

(左)ハウスで栽培される水菜は、年間を通じて出荷される。
(右)“量より質で勝負する”と決め試行錯誤の末、トマトの養液栽培(※)にたどりついた。

  • 養液栽培:作物の生育に必要な養水分を液状肥料(培養液)で与えて栽培する方法

単価の高いおいしいトマト作りに挑戦する

トマト作りは、JA東京みらいの営農指導担当者から紹介していただいた管内のトマト農家を端緒に、栃木・千葉・愛知県のトマトの篤農家のもとで栽培システムを勉強しました。トマトはフルーツトマト以外だと、質より量で稼ぐのが一般的。反収(1反当たりの収入)で年1,000万円稼ぐには、年40トンの生産が必要だといわれています。でも僕は「おいしいトマトを作ることで単価を上げて、反収1,000万円を実現したい。そこに農業の活路を見いだしてチャレンジしたい」と思い、水分含有量などに左右される土壌と異なり、また、温度など環境変化もコントロールしやすい養液栽培に至りました。

東京野菜の特徴を一言で言うと“鮮度”。お客さまとの距離の近さが最大の武器です。通常のトマトは“青もぎ”ですが、うちのトマトは樹で真っ赤に完熟させる“樹熟”のため味が濃い。それができるのも収穫してから消費者に届くまでの時間が短いからこそ。さらに、仲卸業者さんには保冷車で運んでいただいています。なぜなら、たかだか30分~1時間程度の流通時間でも鮮度に差が出るからです。そして万が一、スーパー等に到着した時点で品質に問題があったとしても、トレーサビリティがしっかりしているので、責任の所在も明確です。

関健一さんは、Jr.野菜ソムリエと食品衛生責任者の資格を取得。野菜のおいしい食べ方を積極的に情報発信している。また、東村山市のソースメーカーと連携して真っ赤な「完熟トマト」を100%使用した贅沢なソース「トマトのたれ」や、「COCO TOMATO」を100%使用した無塩・無添加のトマトジュースを開発・販売するなど、新しい農業も挑戦中。

次世代につながる農業経営を実現するために

JA東京みらいには、10アールのトマトハウスの設備投資資金をはじめ、さまざまな形で支援してもらっています。また、仲間と立ち上げた出荷組合「清瀬ベジフルパーティー」では請求書送付や振込などを一括で行う事務委託契約を結んでおり、JA東京みらいに伝票を渡すだけで、請求書の作成から送付、販売先から代金をまとめて受け取って各組合員の口座に入金、といった煩雑な事務作業を代行してもらっています。おかげで自分たちは生産だけに注力できると同時に、取引先も振込先が一括となり効率的かつ手数料も省け、出荷組合との取引を拡大しやすくなります。本当に助かっています。

目下、関ファームのテーマは“経営の効率化”です。当面の目標は、売り上げを伸ばしながら従業員の週休2日制・無残業を実現すること。よりマンパワーや生産性を上げると同時に、従業員の得手不得手を見極めて作業分担を決めるとか、効率向上のため作付けする品目を絞るなど、僕自身のマネジメント力も上げなければなりません。

関ファームでは“東京の野菜を、東京に住む人へ。”をコンセプトに掲げています。もっと東京の野菜を食べてもらうにはどうすればいいか?東京の消費者への流通距離の短さ=CO2の排出量の抑制につながる。すなわち、東京の野菜を食べることが個人レベルでの環境改善活動につながる、といったストーリーを東京野菜普及協会とともにさらに広めていきたい。また、住宅密集地で農業を営む我々にとって“環境を意識する”ことは日常的なことです。通常の培地は鉄分を含むので産業廃棄物となりますが、あえてヤシガラを原料とする培地を選択し、使用後も畑に撒いて再利用しています。ほかにもハウス内に廃液の処理施設を完備する、ハウス周辺にビニールを敷いて土が飛ばないよう工夫するなど、常に近隣住民の住環境に配慮しています。

また、清瀬市内の飲食店との連携等も模索していきたい。例えば、定期的に地元の小中学校や児童養護施設の子どもたちに農業体験の場を提供する。そして、その未来の可能性として、児童養護施設の卒園者が農園等でジョブトレーニングをするなど、最近「農福連携」と言われているようないろいろな形で、農業の多面的機能を発揮できたらと思います。

一つひとつ実績を積み上げながら、ぜひ来る東京オリンピック・パラリンピックに向けて、“都産都消”を広げていきたいですね。

新しい野菜作りや資材について、普段からJA東京みらいの担当者に質問や相談を投げかけることも多い。(左から:農林中央金庫・関東業務部・藤代直希(ふじしろなおき)副調査役、JAバンク東京信連・JAバンク推進部・佐藤寛治(さとうかんじ)課長、関健一さん、JA東京みらい・指導経済課・市川健太郎(いちかわけんたろう)主任、JA東京みらい・地域振興本部指導経済部・大木勝(おおきまさる)部長)

JA東京みらい管内の特産物には、東村山市のサツマイモ・梨・ブドウ、清瀬市のニンジン、東久留米市のホウレンソウ、西東京市のキャベツ・植木などがある。

(取材日:平成29年4月)

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