現場の声 福岡県広域森林組合(福岡県)

福岡県広域森林組合(福岡県)

世界遺産のあるベッドタウン・宗像に「元気な里山」林業を取り戻す ●農林水産業の持続的発展、成長産業化 ●国土・海洋の環境保全 ●地域の多様性保全

 福岡県宗像市は、世界遺産の沖ノ島や宗像大社がある歴史の街でありながら、福岡市と北九州市の中間に位置するベッドタウンでもあります。市の南部には里山が広がり、そこはかつて多くの杉が植えられました。

 しかし、近年では“伐りどき”を迎えているのに手付かずという森も増加。木材の生産にとどまらず、地域のコミュニティや環境、国土の保全など幅広い役割を担う里山の機能不全が問題になりつつあります。

 そうした課題を抱える福岡県広域森林組合の福岡北支店宗像支所に技師として佐々木絢子さんが赴任したのは2015年のこと。高校の理科教諭からの転職でした。学生時代に林学に接していた佐々木技師は、所有者自らが「荒れている」と嘆く状態にあった大穂の森に接し、農中森力基金※の助成の獲得を目指します。

 大穂の森の再生にとって大きなハードルは“道”。2017年度まで宗像支所長を務めた梶原富子さんによると、「大穂は川があって道路が狭く、森の中も足の踏み場がなくて間伐や搬出のための機械の使用もままならない状態でした」。

  • 助成事業で整備された杉林・竹林

  • 佐々木絢子さん

    梶原富子さん

 そこで佐々木技師は道に着目した上で事業計画をまとめあげ、2016年6月に森力基金に応募。「自然と人の共存をめざす里山へ~ムナカタの小さな挑戦~」と題された計画は一次・二次審査を経て2017年3月に見事、助成対象に選定されました。審査で評価されたのは、道づくりや機械化・低コスト化を通じて里山の持つ多様な機能を長期的に再生させていくことを目指している点でした。

 事業は翌4月からスタートし、2017年度を通して森林作業道を計3.5キロメートル開設したほか、既存の林道のスラグ舗装も実施。その結果、計30ヘクタール以上に及ぶ杉の間伐や1ヘクタール超の再造林が実現したほか、森林への侵食が問題視される竹林も計1.8ヘクタールで皆伐・間伐が行われました。

 助成事業を無事終えて佐々木技師は次のように語ります。「すぐに結果が出るというのではなく、何十年にわたって取り組んで何十年にわたって成果が出るのが林業。今回、1年の助成で達成できたことが本当に大きく、周辺の地域からも『ウチの山でも……』といった声を聞きますので、成果をさらに拡げていきたいですね」。

  • 正式名称は「公益信託農林中金森林再生基金」

林業と地域の持続的発展を支える農中森力基金

国土の7割が森で覆われる日本。森林は、農林水産業の持続的発展に不可欠であるほか、地球温暖化の抑制や水源の涵養など多面的な機能を評価されています。しかし、国内の森林の4割は主に戦後に植林された人工林で、その多くは、木材価格の低迷や林業従事者の減少により、荒れ果てた姿に変わりつつあります。そこで農林中央金庫は2005年に「森林再生基金(FRONT 80)」を設立。2014年度からは「農中森力基金」として継続しています。助成や専門家の助言などを通じて、荒廃した民有林の再生に取り組み、森林の持つさまざまな役割と公益性の回復を目指しています。

(取材日:平成30年4月)

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