現場の声 BEER EXPERIENCE(岩手県)

BEER EXPERIENCE(岩手県)

官民一体の産地支援によりホップの名産地・遠野のまちづくりを推進

 民話の里として知られる岩手県の遠野市はまた、ビールに独特の風味を生み出すホップの名産地でもあります。

 その遠野市が掲げる「ビールの里構想」の実現に向けたまちづくりを加速させるため、農林中央金庫とキリンは2018年、地元の農業法人であるBEER EXPERIENCE株式会社 (吉田敦史代表取締役社長) に出資を行いました※。

 少子高齢化が進む日本において、地方の過疎化や農業の後継者不足は深刻な社会問題となっています。国内有数のホップ産地である遠野市でも、生産量はピーク時の約4分の1にまで減少しています。

 キリンは、ホップ栽培で50年以上の契約関係を持つ遠野市などとともに、「ホップの里からビールの里へ」を合言葉としてさまざまな取組みを手がけ、新規就農者の獲得や市内交流人口の増加などに貢献してきました。

 BEER EXPERIENCEへの出資を通じてキリンは、日本産ホップの持続的生産やブランド価値の向上、地域経済の活性化といった社会的価値を提供するとともに、日本産ホップの安定調達、クラフトブルワーへのホップ外販を通じたクラフトビール分野の育成などの経済的価値の創出にもつなげ、「CSV(価値の共創)経営」を実践しています。

 このBEER EXPERIENCE設立の話が持ち上がった際、キリンとタッグを組んだのが農林中央金庫です。キリンにとって農林中央金庫は、かねてより融資などの取引関係のある金融機関ですが、今回ポイントとなったのは、金融に加えて農業にも知見を持つ点、食農ビジネスの一環として農業法人への支援に注力している点、JAグループの一員として岩手県信用農業協同組合連合会(県信連)やJAいわて花巻との連携が可能である点でした。

 農業法人の事業計画や資金計画の策定では農林中央金庫が、補助金活用に向けた岩手県庁や遠野市役所などとの調整では岩手県信連やJAいわて花巻がそれぞれサポートを実施。さらに農林中央金庫は、キリンとともに新設の農業法人に出資を行うところまで踏み込みました。

 キリン、農林中央金庫、BEER EXPERIENCEの3者は、今後もそれぞれの役割を担い、官民一体となって遠野市のまちづくりを支援していくことで、社会課題である「地域創生」のモデルケースを示し、日本全国に同様の取組みを広げていくことを目指しています。

 BEER EXPERIENCEの目標は、パドロンやホップの生産拡大にとどまりません。たとえば6次産業化への取組みでは、ホップの風味を活かした「HOPsyrup(ホップシロップ)」を開発。すでにキリンによって販売されています。また、遠野市によるビールを通じた地域振興にも、地元のホップ生産者とともに、引き続き積極的な役割を果たしていく考えです。

 ※農林中央金庫による出資は、農業法人の投資育成事業を担当するファンドであるアグリビジネス投資育成株式会社によって行われました。

BEER EXPERIENCEの吉田社長はIターン就農者
国産ホップの需要は高まっている
独特の風味のホップシロップ。用途は広い
揚げる前のパドロンはシシトウ似
パドロンはスペインではビールの友

(取材日:2019年5月)

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