現場の声 宮古森林組合(沖縄県)

林業への貢献~木育活動への支援

地域の今を守り、子どもたちの未来を創る森づくり ※左から 宮古森林組合 下地幹男(しもじ みきお)班長 佐和田勝彦(さわだ かつひこ)常務理事 上原康嗣(うえはら こうじ)主任技師

沖縄県南部の宮古地域を管内とする宮古森林組合は、森林の公益的機能を重視した森林整備とともに、地域のみなさんをつなぐ「美ぎ島宮古(かぎすまみゃーく)グリーンネット」活動、当金庫の助成を活用した子どもたちへの木育活動など、地域の緑づくりの拠点として幅広い活動を行っています。

組合設立の契機~沖縄返還後の20年で森林面積が半減

「宮古森林組合が設立された背景には、沖縄の急激な自然環境の変化がありました。宮古地域は農地等の耕地面積が50%以上を占め緑地率は高いものの、沖縄返還の昭和47年前後には約30%だった森林率は農地の開発等で急激に減少し、現在は約18%となっています。

宮古地域には川がなく、飲み水や農地用水は井戸水などの水源に頼っています。水源の維持はもとより防災にも重要な役割を果たす森林が減少し、自然環境保全が懸念されるなか、平成5年の渇水により宮古地域で初めて給水制限が実施されました。これによって、市町村が一体となって森林を整備しようという機運が高まり、平成7年に当組合が設立されたのです。

当組合は、各市町村の整備計画に基づき、農業・漁業関係者と連携しながら、農地防風林や水源涵養林など、森林の公益的機能を重視した森林整備を行っています。」(佐和田勝彦常務理事)

高さや成長速度が異なる樹木それぞれの特性を活かした混合林として、地元産のフクギ、イヌマキ、テリハボク、リュウキュウマツなどを適材適所に配し、20~30年単位の時間をかけて農地防風林、水源涵養林等を造林します。

地域住民を巻き込んだ実践的かつ長期的視野での森林整備

「平成15年には、台風第14号が宮古地域を直撃し、甚大な被害を及ぼしました。そのとき、改めて防風林の有効性・必要性が認識され、県市町村やJA等と連携し、当組合内に事務局を置く『美ぎ島宮古グリーンネット』が平成17年に設立されました。

グリーンネットの活動は、地域の団体・個人の会員から会費を募り、年に数回行う植樹および育林にボランティアとして参加してもらっています。この活動は、平成28年度までに累計59回を数え、会員数は49団体、個人会員119人に達しました。

コンセプト“植えた木を育てていく”のもと、グリーンネットの活動はまさに地域貢献。地域のみなさんに担い手としてグリーンネットの活動に実際に関わっていただくことで、結果的に森林整備の重要性や森林組合の活動への理解が高まってきました。」(上原康嗣主任技師)

フクギ、イヌマキ、テリハボク、リュウキュウマツなどの地元産の樹木を植樹し育てる。ボランティアの会員が植樹した本数(補植含む)は26,000本超、87,917m2に及びます。

山を知らない子どもたちに木工体験を

「実は宮古島には山がなく、緑といえば農地です。子どもたちは山で遊んだ経験がなく、地元の樹種さえ分かりません。当組合では、従来から高校生のインターンシップを受け入れているほか、地元の小中学生に環境教育として、森林の役割や森林組合の仕事などを教える講座を実施しています。平成29年2月には初の試みとして、農林中央金庫からの助成を得て、宮古島市立東小学校の5・6年生の子どもたち約170人が実際に木工体験を行う木育講座・体験学習『木が好きな人を育てる活動~「触」・「創」・「知」体験教室~』を開催しました。」(佐和田常務理事)

「農林中央金庫・那覇支店の方の協力を得ながら、1年がかりで企画・準備しました。木工体験で使用した組み立て式の製材品は、少しでも地元産業を知ってほしいという地元の木工業者と連携し、この日のために用意してもらいました。」(上原主任技師)

宮古森林組合の職員が総出で参加。何よりもけがなく安全に体験学習を終えるために、児童6人に対し職員1人がつく態勢で作業を見守り、講座は無事に終了。子どもたちには大好評でした。

地域に貢献するために、まずは職員の安全を守る

「当組合の設立時には、私を含めた職員の多くが森林整備に初めて関わることとなり、必死に知識と技術を習得。業務に取組みながら、試行錯誤しつつ独自の提案も行ってきました。平成17年度には、県や市町村との意見調整のもと、『緑を増やし、健全で豊かな美ぎ島(かぎすま)みゃーくの創生をめざして』を基本理念とする『宮古地域グリーンベルト整備計画』を策定し、宮古地域の未来像を念頭に、①海岸(防潮林などの整備による防災)、②農地(農地防風林などの造成による農業振興)、③景観(緑化など美しい景観の形成による観光振興)、④水(水源涵養林の造成による推進・保全等)という4つのグリーンベルトを実現する構想を提案しました。及ばずながら、宮古地域の環境を守っていくためには、当組合の存在意義をもっと高めていかなければなりません。」(佐和田常務理事)

「職員たちは仕事を続けていくなかで、地域に貢献する森林組合の役割や意義を理解していきます。しかし、森林組合の施業現場は時に危険と隣り合わせの過酷な仕事。日々の安全管理が何よりも重要です。そうしたなかで、職員たちは成長しながら、理想の森林づくりを続けることができるのです。

農林中央金庫からの助成で導入したバイオメッシュ素材の安全服は、チェーンソーなどを使う施業中の事故やけがをなくすためにも、現場を預かる立場から、ぜひ使いたいと思っていたものでした。」(下地幹男班長)

「当組合は施業現場も含めて全員が職員で、一番年下は29歳。これから30年以上、彼らの人生を預かる責任があります。まずは職員が幸せになれる職場をつくり、10~20年、さらに30年先を見据えながら事業を広げていき、『宮古地域に森林組合が存在してよかった』と地元住民のみなさんに言っていただけるような、愛される森林組合を目指していきます。」(佐和田常務理事)

労働安全対策のために施業開始前の安全点呼は欠かせません。「安全装備品を着用することで、より安全に作業するという意識が高まります」と職員たちは口を揃えます。

(取材日:平成29年2月)

pagetop