林業への貢献~「農中森力(もりぢから)基金」助成先の取組み
「優良みやぎ材」の産地で知られる本吉町森林組合。樹齢およそ50~60年のスギが伐期を迎えているものの、組合員の関心はいまひとつ。森林再生基金(農中森力(もりぢから)基金)の助成を活用した「宝の山づくり」事業を通じて、地元木材の地産地消の機運を高め、山への関心を高めるべく奮闘する同森林組合の大江義郎(おおえよしろう)代表理事組合長と加納保(かのうたもつ)総務課長に話を聞きました。
山林所有者が山を見直すきっかけに~「宝の山づくり」事業
「当組合では、東日本大震災前までは高性能林業機械による施業を積極的に行い、小規模の森林組合ながら年間約10,000㎥の材を生産する素材生産事業が主体でした。しかし、震災を機に土木工事を行う復興事業がメインになっていました。
とはいえ、復興事業はいつまでも続くものではありません。 次の一手を見据えて、あらためて本格的な集約化事業再開の足掛かりをつくりたいと考えていました。 また、組合員の世代交代が進み山への関心が薄れている現状を打開し、間伐などきちんと手入れさえすれば、荒廃しそうな山でも利益を生む“宝の山”に変えられるという前例を作りたかったのです。
また他方では、気仙沼市の震災復興事業の一環として、市内にバイオマスプラントの建設計画が持ち上がり、未利用材であるC・D材の需要増加が見込めたことと、地域資源の最大活用を目的とした『緑の分権改革』による実証実験を1年掛かりで取り組んでいたタイミングでもあり、『宝の山づくり』事業を申請しました。」(大江代表理事組合長)
「今回のプロジェクトを通じて、各種研修を行い職員・作業班員ともに知識・技術の向上につながり、それらを作業道の開設・補修や搬出作業に活かすことができました。また、山林所有者とは情報や意見を交換するための場を設け対話を繰り返すことで、理解や賛同が得られたばかりでなく、山林所有者にとってもあらためて山を見直すまたとない機会となったことをうれしく思います。 今回の経験やノウハウをしっかりと分析し蓄積していくことで今後に活かし、ゆくゆくは本事業地を『宝の山プロジェクト』のモデル林として、管内の他地域にも広げていきたいと考えています。」(加納総務課長)
組合員から常に頼りにされる存在となり、次世代に“宝の山”をつなぐ
「当組合では、さらなる高性能林業機械の導入により施業の効率化を積極的に進めていく考えです。それに伴い、農中森力基金の助成金の一部をGIS(地理情報システム)のソフト購入資金に充て、GPS(全地球測位システム)もあわせて購入しました。現在はGISにデータを蓄積している最中で、これから境界確認のために大いに活用し効率化を進めようと思っています。
他方、組合員の世代交代は進み、先代から山を引き継いだ世代の大半は山に入ったことがありません。そのため、所有する森林の境界が分からない、荒廃状態など森林の状況が分からない、そもそも所有する山がどこにあるのかすら分からない、といった所有者もいらっしゃいます。これからは、施業を実施する森林から境界確認を行っていき、それらデータを施業履歴とともに次世代に残し、つなげていくことが不可欠です。
もともとこの地域には、他と比べると手入れが行き届いた山が多くありました。しかし、山にはお金と手をかけなければ、いい木材が育ちません。「親」という字は“立って木を見る”と書くように、昔の人はわが子を慈しむように山の木を大切にしたのです。当管内には、今まさに伐期を迎えた山が数多くあり、こうして山から得た利益は次世代にもきちんと引き継いでゆくべきではないでしょうか。
さらに、将来、組合員が森林を何かの役に立てたいと思ったときに役に立てられるような山づくりを提案していくとともに、組合員に『本吉町森林組合に行けば所有する森林の状況が分かる』というようにしなければなりません。また当森林組合として、そうした期待を雇用にもつなげ、人への投資も行っていきたいと考えています。」(大江代表理事組合長)
震災からの復興に向けた木材の地産地消、そして理想と現実
「東日本大震災は、本吉町にも大きな被害をもたらしました。震災後、避難所での生活が長引いていくなか、同世代の仲間の間で自宅再建が議論の対象になり、それなら高台に共同建築で安全・安心な住まいを建てて集落を再生させようという機運が高まりました。そんななか、高台に地元産材を優先的に使用した住宅再建を推進する計画が持ち上がったのです。
もともと三陸沿岸では、漁業で生計を立てている住民が多く、財をなした漁師たちは『唐桑御殿』と呼ばれる在来工法で建設する邸宅を競うように建てていました。そのため、この地域には在来工法の大工さんが多くいます。しかし、大工さんが大勢いても、それぞれの工務店で建てられる住宅はせいぜい年間2~3棟が限界で、どうしても時間がかかってしまいます。
被災した住民たちには、一日でも早く避難所から出て新しい“わが家”に移り住みたいという切実な想いがありました。こうした事情から、なかには建築工期が短いハウスメーカーへ建築を依頼する人もおり、残念ながら地元産材を使用した木造住宅の共同購入・共同建築は実現できませんでした。
それでも当組合は、森林所有者の方々から木材の供給に理解をいただいたばかりでなく、岩手県の製材所やプレカット工場などにも協力を仰ぎ、可能な限り多くの木材を供給し、希望者の住宅建設の需要に全力で応えてきました。こうして復興に向けてみんなで助け合い、木材の地産地消を進めることができたのは、協同組合という組織の役割が発揮できたからだと実感しています。」(加納総務課長)
(取材日:平成28年10月)
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