復興支援
東日本大震災から5年。地元農業者、JAと当金庫を含む系統組織、行政が一体となり、震災後の新たな農業に挑戦する仙台市若林区井土浜地区での取組みについて、農事組合法人井土生産組合の鈴木保則(すずき やすのり)代表理事に話を伺いました。
生産組合を設立し、地域の農地99%を集約化
「震災直後は、誰もが農業はもう無理だと、避難所で途方に暮れる毎日でした。ところが復旧が進み、平地に緑の雑草が生えてきていた。復旧作業の手伝いで集まった農業者同士が自然と、もしかしたらもう一度農業ができるんじゃないか――そう口にするようになったのは、震災から1年後でした。
そこで、震災前まで井土浜地区に住んでいた103戸の住民にアンケートしたところ、多くの人が農地を委託して離農したい、と考えていました。営農再開には設備投資など経済的な負担もあるし、避難所暮らしで住宅再建を優先するのは当然ですからね。そこで、農地を預かるには受け皿が必要だということで、今後も主体的に農業を続けたいと回答した専業農家15名で、平成25年1月に当生産組合を立ち上げました。先輩方からの後押しもあり、一番若い私が代表に就任しました。
震災前の井土浜地区では、各農家による自己完結型の農業が主流で、10アール(約0.1ha)規模の水田の間に畑が点在していましたが、『我々が農地を守ります』と伝え、地元のみなさんに安心していただいたうえで、地域の農地99%を集約化。当生産組合の経営面積は、100haと広大なものになりました。」
関係機関が総力を結集して、生産組合を応援
「今日に至るのは、本当にたくさんのみなさんからの支援のおかげです。最初から負担が大きいと続かないと思い、資金150万円からスタート。理事の8名は1年間無給でしたが、それでも運転資金が足りません。そこで、JA仙台等に融資をお願いして、それ以来、税務・決算処理など経営全般の支援も受けています。
また、被災した農地は塩害もひどく、単なる復旧では質の高い作物を栽培できません。農林中央金庫の助成で、広大な土地に土壌改良剤や肥料を大量に投入できたことが、営農再開1年目から稲や作物をきちんと栽培できた大きな要因だと思います。
営農を再開した平成25年には、まだ20haしか農地が本格復旧していませんでしたが、それでも広過ぎて、当生産組合のメンバーだけではとても人手が足りません。生産の効率化が大きなテーマとなりました。JA仙台や県の農業改良普及センター等のみなさんに支援していただき、生産効率化のための先進技術を導入し、六郷ライスセンター等の施設も利用させていただいています。
稲作を効率化する一方で、付加価値の高い野菜作りにも取組みたいと考え、JA仙台に相談したところ、塩害に影響されにくく、比較的手間がかからない野菜ということで作付けを始めたのが、長ネギとタマネギです。幸いにも、最初から高品質の作物が一定の収量で収穫できました。おかげさまで、「仙台井土ねぎ」は品評会で宮城県知事賞を受賞し、ブランド化を進めています。また、全農ブランドで糖度が高いミニトマト「アンジェレ」の生産も順調です。
作るのは得意な我々ですが、販売は素人ですからね。全農が卸先となってくれたこと、また農林中央金庫の東北復興商談会で新たな顧客と出会えたことも感謝しています。」
地域コミュニティを守りながら、夢を広げる
「今年からは、21歳の若い担い手も採用しました。事業の拡大とともに、パートのスタッフも増え、そのなかには震災前には農業に携わっていなかった方もいます。まだ少し先の話になりますが、離農した農家のお子さん世代の新規就農先として、当生産組合が存在できるように頑張りたいですね。
あの震災では、命が犠牲になった方もいます。我々は、単に農地だけでなく、みなさんの思いも託されています。残念ながら、震災後に井土浜地区に居住しているのは5世帯だけです。でも、当生産組合が、地元、販売先、消費者等へと輪を広げることで、少なくとも日中には多くの働く人が集う地域としてありたい。そして、地域コミュニティを守っていきたい、という強い気持ちがあります。
今、JA仙台と取り組んでいるのは、グローバルギャップ(Global GAP:国際標準の適正農業規範)です。平成32年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、井土浜地区の農産物を海外にもアピールするために、今年中に米と野菜で認証を取得しようと発破を掛けられています。経営規模が拡大すれば、新たな課題もあると思いますが、これからも当生産組合のメンバーと思いを一つに、周囲のみなさんに助けていただきながら、頑張っていきます。」
(取材日:平成28年5月)
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