特集:“脱炭素”で地域の暮らしを支える

“営農”と“売電”の両立で持続可能な農業をJAバンクが営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を支援

栃木県塩谷郡高根沢町で稲作を営む見目けんもくさんの圃場に2021年2月に設置されたソーラーシェアリング。
設置後も稲は例年どおり順調に生育し、この秋に収穫を迎えた(左上は刈り取り前の稲の拡大写真)。

農業を継続しながら農地の上空で発電を行う「営農型太陽光発電」(ソーラーシェアリング)が注目されている。営農を継続しながら売電収入が得られるため、農業者の所得向上・経営安定化や耕作放棄地の再生への貢献も期待される。栃木県と千葉県の先進事例を紹介する。

 JAバンクでは2030年に向けて脱炭素化とレジリエンス強化を実現するため、再生可能エネルギーの普及に取り組み、4つの施策「1.自家消費」「2.JAの防災拠点化」「3.営農型太陽光発電」「4.地域新電力」を掲げている。このうちの一つである営農型太陽光発電については、JAバンクが個人農家の小規模なニーズにも応える全国スキームを構築し、農林中央金庫(農林中金)は2019年度から低圧太陽光発電(10kW以上50kW未満)領域で実績のある発電設備の施工・販売会社4社と提携を開始した。
 地域のJAの紹介により普及が進んでいるソーラーシェアリングの主目的はあくまで営農。売電による継続的な収入や発電電力の自家利用等による農業経営のさらなる改善に向けた取り組みとなっている。

<ケーススタディ1>
コロナ禍で米価が下落、安定的な所得収入を見据える

 「以前からソーラーシェアリングに興味はありました」と語るのは栃木県塩谷郡高根沢町で代々稲作を営む見目けんもく智史さとしさん(40)だ。大学卒業後、自動車関連会社で電子機器開発に携わった智史さんは2015年に実家で新規就農。圃場管理アプリやドローンなどスマート農業を活用した農業の“改善”にも積極的に取り組んできた。そんななか、2020年初めにJA全農とちぎが主催したセミナーで、(株)ウエストエネルギーソリューション(ウエスト社)のソーラーシェアリングの取り組みを知った。周囲に前例もない新しい取り組みだけに導入を即決はできなかった。ところが、父親の修一さん(69)に報告すると、これは良い!とあっという間に導入に至る。「コロナの影響でコメの余剰在庫が増え、米価も下がるなか、安定的に所得を維持する方法を考えていました。JAさんからの紹介会社なら安心できると契約しました」と修一さんは振り返る。
 今回、見目家は太陽光発電の適地である一部の圃場に80kW(345W×232枚)の太陽光パネルを設置。発電した電気は全て売電する。ウエスト社との契約では20年間の売電収入および設備メンテナンスが保証される。JAしおのや阿久津支店の大森文博融資サポーターは「以前は太陽光発電への多額融資に必ずしも積極的ではありませんでした。晴天が続かない、設備が壊れたなど想定外の理由で売電収入が得られないリスクや、農家にとって一番肝心の農作物への影響が不透明な部分があるからです」。しかしウエスト社の保証スキームの後押しもあり、見目家はJAバンクから設置費用全額約1,200万円の融資を受けた。融資は約10年で完済し、その後の10年は売電収入が副収入となり、所得の安定化に寄与する予定。智史さんは「農業で同じ収入を得るには、よほど米価が上がるかコストを下げるかですが、現状は両方とも難しい」と語る。

JA しおのや組合員 見目 智史さん
JA しおのや組合員 見目 修一さん

農業の可能性を広げるソーラーシェアリング

 智史さんいわく、設置までには農地転用手続きに苦労したなど、さらなる普及には課題もあるようだ。しかし、「懸念していた稲の生育にも影響がなく導入メリットは大きい」と修一さん。また智史さんは「例えば自家発電用の蓄電池が付くオプションがあるなど、将来を見据えて売電以外の役割を持たせられる仕組みがあるとさらに導入がしやすく、ありがたい」と話す。また、「カーボンニュートラルという時代の流れに沿った最先端の農業が実現できる点も若い人には魅力的に映るはず」。
 他方、地域にとっては、集落単位のソーラーシェアリングで発電した電気を使って農機を動かしたり、加工施設を運営するなど、持続可能な農業をアピールしつつ事業や雇用を拡大するといった可能性もある。「生産者が意識改革しながら新しい技術に積極的に向き合うことで農業の未来は変わってくる」と智史さんは言葉をつないだ。

出所:営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2021年度版 農林水産省)をもとに作成

<ケーススタディ2>
ソーラーシェアリングを活用して地域を活性化

 ソーラーシェアリングの先進的な取り組みで地域の活性化を推進するのが千葉エコ・エネルギー(株)馬上まがみ丈司たけし代表取締役(38)だ。千葉大学大学院で環境や農業問題に携わっていた馬上さんは、2012年に再生可能エネルギー事業を支援する千葉エコ・エネルギー社を設立。その後、外資系企業のメガソーラー事業等に携わっていた馬上さんは、2015年に、手作りでソーラーシェアリングを実現しようとする千葉県匝瑳そうさ市飯塚の農業者ら4人と出会う。彼らは当時50~60代、地元の顔役や専業農家だった。「当時の飯塚地区では集落の農地約80haの1/4の約20haが耕作放棄地。出会った農業者の皆さんは『10~15年後には営農者がいなくなる。ソーラーシェアリングを活用して耕作放棄地を解消し、集落を活性化したい』と考えていました」と馬上さんは振り返る。
 「耕作放棄地で営農を再開しても、すぐに栽培できるのは大豆ぐらい。野菜を栽培できる土壌を再生するには10~15年かかる。その間、ソーラーシェアリングで収入を底上げし、手間のかかる土地の再生に取り組もうという皆さんの思いに共感しました」。農業者たちが発電設備の大型化に取り組む一方で、馬上さんはこれまでの経験を活かして資金調達や外部との連携を取り付けるなど役割分担し、数億円規模のプロジェクトを一歩ずつ実現した。「さまざまな苦労を重ねながら、農業者の皆さんの不退転の覚悟がプロジェクトの成功につながった」と馬上さんは言う。現在までに飯塚地区ではメガソーラーシェアリングをはじめ、2017年からの3年間で10haの耕作放棄地での営農再開などを実現させた。
 現在、馬上さんは千葉市緑区で若い担い手を雇用して自社農場を運営している。有機農業など環境意識が高い若者は、ソーラーシェアリングへの関心も高い。「海外ではあらゆる生産物のエネルギー起源が問われる時代。日本の農業の国際化を見据えて環境負荷を軽減することは重要なテーマです」と語る馬上さん。さらに、令和元年房総半島台風を契機に地元の自治会と防災協力協定を締結し、災害時にソーラーシェアリングによる発電電気を地域に供給する仕組みも構築するなど広がりを見せている。
 今後のソーラーシェアリングの全国普及に向けた課題について、馬上さんは「一番苦労したのは資金調達。JAバンクや農林中金が仕組みをサポートすることは非常に心強い」と語る一方で、「まだ一般の方にソーラーシェアリングの認知度は低い。まずは知っていただくこと。関係者が連携しながら、ソーラーシェアリングの意義を広めていきたい」と語った。

千葉エコ・エネルギー(株)馬上 丈司 代表取締役
「匝瑳メガソーラーシェアリング」は、2017年3月から設備容量1MWの大規模ソーラーシェアリング発電所を運営。設置場所はもともと耕作放棄地だったことから、大豆や麦などの穀物類を中心に作付けしながら土壌改良を進めている。
①太陽光発電設備の支柱の間の稲刈り作業は、通常の圃場と同じくコンバインで行える。②タブレット端末でいつでもどこでも売電収入の状況が把握できる。③(左から)JAしおのや 阿久津支店 古田土雄輔主任・大森文博 融資サポーター、 見目智史さん・修一さん、農林中金 宇都宮支店 融資推進班 小池一隆 が今回のソーラーシェアリング導入に携わった。栃木県内のJAグループでは、これから農地転用許可申請を控えた案件が70件超ある。

農林中金
担当者の声
ソーラーシェアリングに関心のある農業者が安心して導入をご検討いただけるよう、情報発信の充実と資金対応の強化に努めます。

気候変動リスクに対応し、農業や地域の持続的発展を目指す

 今回、当金庫のニュースレターで紹介するソーラーシェアリングへの取り組みは、JAバンク中期戦略における再生可能エネルギーの普及に向けた主要施策の一つです。世界的に気候変動リスクが高まるなか、JAバンクは2030年に向けて「脱炭素化」「レジリエンス強化」をテーマに再生可能エネルギーの導入・活用に積極的に取り組み、農業や地域の持続的発展に貢献することを目指しています。
 また、地域資源(農地を含む土地、水等)を活用して発電した再生可能エネルギーである電気を地域の農林水産業関連施設で利用し、農林水産物の販売や地域のPR、そして地域の活性化につなげていきたいと考えています。

農業者の所得向上・経営安定化に資するソーラーシェアリング

 一方で、JAバンクは農業者の所得向上・経営安定化に資する施策としてソーラーシェアリングに取り組んできました。本紙で事例を紹介していますが、農業を継続しながら上空で太陽光発電を行うソーラーシェアリングは、売電で副収入を得ることで農業者の所得向上・経営安定化に資するとともに、耕作放棄地の再生にもつながります。JAバンクでは従来から太陽光発電設備の導入に際しての資金対応を行ってきました。2019年7月には全国的に実績のある太陽光発電設備の施工・販売会社4社((株)ウエストエネルギーソリューション、(株)エコスタイル、京セラ(株)、(株)サニックス)との提携を開始し、今後は提携会社とJAとのビジネスマッチング契約を通じて、ソーラーシェアリングの導入を希望する農業者のサポートを強化していきます。
 ソーラーシェアリングは再生可能エネルギーの専門家から注目を集める一方で、生産者を含む農業関係者には十分に知られていないのが現状です。当金庫の役割として、まずはソーラーシェアリングに関する認知を高め、組合員のさまざまな疑問̶̶国の固定価格買取制度(FIT)や、太陽光パネル下での農作物の栽培実績等̶̶に対して幅広くかつタイムリーに情報発信してまいります。2021年9月には都道府県組織を対象に全国説明会を開催したほか、提携会社と連携した勉強会の実施や、再生可能エネルギーへの理解を深めるための動画配信も予定しています。農業の発展と調和のとれたソーラーシェアリングの普及に貢献できるよう、情報発信の充実と資金対応の強化に努めてまいります。

農林中央金庫リテール事業本部JAバンクリテール実践部(系統金融仲介グループ 地域・生活貸出企画ユニット)部長代理 久下沼 秀徳

農林中央金庫とは

当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。
この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。

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