理事長メッセージ

変化を力に、挑戦を積み重ねながら
稼ぐ力を育て、農林水産業の持続的な発展へ繋ぐ

理事長就任から1年間
一歩一歩着実に変化を積み重ねる

写真:北林 太郎

 理事長に就任してからの1年間、「稼ぐ力の再構築」「農林水産業の持続的な発展への貢献」「ステークホルダーからの信頼回復」という3点を自身の注力テーマに据え、一歩一歩着実に取り組んできました。これらの総括に入る前に少し私自身の1年間の感想を述べたいと思います。予想していたことではあったのですが、変化を生み出すにはやはり時間が必要だということを改めて実感しました。具体的には3つあります。1つ目は、布石を打ってから結果が出るまでの時間――農林水産業や地域はもともとスケールが大きく、じっくりと腰を据えて向き合うことが必要だということ。2つ目は、組織の方向感が変わるまでの時間――様々な変化にあたって役職員一人ひとりが腹落ちするプロセスを丁寧に重ねることが、組織の底力を育てることに繋がっていくということ。そして3つ目は、お客さまとの相互理解を深めるまでの時間――お客さまが抱える課題一つ一つに対して「農林中央金庫はこんなことができて、こんな相談に乗ってもらえる」と実感していただくために、こちらが変わり続ける姿を見ていただくことが何より大切だということです。

 もちろん外部環境は待ったなしに変化しています。地政学リスクの顕在化をはじめ、金融・経済情勢は世界中で日々変化し、そして国内の農林水産業にも影響が波及しています。また、生成AIなどの技術革新も大変目覚ましく、チャンスにもなれば脅威にもなります。こうした環境の変化にしっかりと適応し、ステークホルダーのみなさまへ価値を提供し続けていくためにも短期的な成果を焦るのではなく、着実に取組みを積み重ねていく姿勢が大事だと考えています。

 一方、組織内では少しずつ変化が見られました。職員のエンゲージメント調査では、組織の将来や自身が携わる業務を前向きに捉える職員が徐々に増えてきていますし、経営管理委員からも「組織の雰囲気が変わってきた」とのお言葉をいただいています。私自身、就任以来一貫して役職員に対して同じメッセージを発信し続けてきました。「明るく前を向いて進もう」「内向きにならず外から学ぼう」「日々の業務のなかで小さなチャレンジを積み重ねることを大切に」――こうした言葉を繰り返し伝え続けることが、これからの組織を動かす原動力になると確信しています。

“稼ぐ力”と“農林水産業の発展”
中長期を見据えた成果を意識

写真:北林 太郎

 さて、こうした取組みを続けるなかでの一つの成果として、2025年度は黒字を確保することができました。2024年度の損失を受け、資本増強をはじめとした数々のご支援をくださった会員のみなさまには改めて心より感謝申しあげます。

 「稼ぐ力の再構築」、すなわち今後安定的に黒字を確保していくためには、収益源の分散化に粘り強く取り組み続けることが重要です。過去の経験と反省を真摯に受け止め、これから先の局面がどのように変わろうとも分散化への取組みを継続するという姿勢を組織全体で共有し、目先の収益目標に偏りすぎることなく着実に取り組んできました。まだまだ緒に就いたばかりですが、リスク・リターンを丁寧に見極めながら新しい投資にチャレンジしたり、グループ全体で収益源を分散させるための取組みを進めたり――当金庫全体の規模からすると一つ一つは小さな変化ですが、諦めずに続けることの積み重ねの先に、持続的で強固な収益力の構築があると信じています。

 「農林水産業の持続的な発展への貢献」に向けて、食農バリューチェーン全体へのアプローチを一層強化してきました。食農ビジネスを担う本部の機構改正に始まり、大規模化を志向する担い手や老朽化する各種施設の再編を後押しするために、既存の枠との合算にはなりますが総額1,000億円の融資枠を新設し、そして農業融資を担当する職員を1割増加させるなど、体制と手段の両面で強化を進めました。また、バリューチェーン全体を捉えたM&Aや企業価値向上に関する提案などにも積極的に取り組み、農林水産業者のみなさまへ提供するソリューションの更なる高度化にも挑戦しています。

 2026年度も引き続き「稼ぐ力の再構築」と「農林水産業の持続的な発展への貢献」に向けた取組みを確実に進め、その結果を「ステークホルダーのみなさまからの信頼回復」に繋げていきたいと考えています。そのために、私たちが何を目指し、何を実行し、どのような変化を生み出そうとしているのかを、ステークホルダーのみなさまに向けてより明確に発信し続けていくことも、信頼回復に向けた大切な取組みだと考えています。この統合報告書の発行もその一つです。繰り返しになりますが、短期的な変化にはしっかり適応しつつも、これら3つのテーマは一朝一夕ではなく、中長期を見据えてしっかりと成果を出していくことを意識した経営を進めていきたいと考えています。

農林中央金庫法の改正も後押しに
農林水産業への貢献を次のステージへ

写真:北林 太郎

 2026年4月に農林中央金庫法が改正されました。改正の大きなポイントは3点です。1点目は、農林水産業者向けの融資機能の強化で、当金庫の目的を定めた第一条において、私たちが金融の円滑を図る対象に「協同組織の構成員(農林水産業者)」も明示されるとともに、任意業務だった農林水産業者向けの融資業務等が必須業務に位置づけられたこと。2点目は、出資機能の強化で、農林水産業者やその関連事業者への出資を以前よりも積極的に行えるよう、出資にあたって必要な手続きが緩和されたこと。3点目は、外部の専門人材を理事として登用できるように、兼職・兼業規制が緩和されたことです。

 この改正を、私は「農林中央金庫がこれまで取り組んできた方向性を、法制度面からも後押ししていただいた」と受け止めています。農林水産業を取り巻く環境は、担い手の減少、資材価格の高止まり、国際情勢の緊迫化など、様々な課題が複合的に重なり、大きな転換点を迎えています。そうした局面で私たちがもう一段の役割を発揮できるよう、法改正という形で期待を寄せていただいたと理解しています。これまでの取組みを棚卸ししながら、今日的に何が足りないか、更に何を上積みすべきかを問い直し、取組みを一層加速させていく所存です。

 農林水産業向けの融資・出資の強化については、JAバンクでいえばJA・JA信農連・当金庫と、それぞれの役割分担・連携のもとで対応にあたっていくことは変わりないですが、農業分野では大規模化・集約化が進むなかで、全国機関としての当金庫だからこそサポートできる案件も増えていくことが見込まれます。また出資機能の充実は、先述した農林水産業の転換局面でリスクをともに背負って伴走するという私たちの意志を、より明確な形にするための大きな手段になると感じています。コンサルティング機能の強化、農林水産業のDX化支援、バリューチェーン全体を捉えた支援、アグリテック・フードテックなどイノベーション企業への伴走支援も含めて、金融と非金融を掛け合わせた取組みを力強く推進してまいります。金融を軸に様々なプレーヤーを集結させ、農林水産業の持続可能性にともに向き合う――そうした役割を担っていきたいと考えています。

 外部専門人材の理事登用については、今回の法改正を受けて早速2名の外部有識者の方に理事へ就任いただきました。これまでも財務戦略委員会で外部有識者の方々の知見を取り入れてきましたが、理事会においても当金庫出身の理事とは異なる客観的・専門的な視点を加えることで、多角的な視野から経営判断ができる体制を整えられたと考えています。一方で、JA・JF・JForestが直面している現場や系統組織の目線も引き続き重要であることに変わりはありません。外部の目線と系統組織の目線とをうまく融合させながら、「農林水産業や地域をより良くしたい」という共通の思いを原点に、議論を積み重ねていくプロセスを丁寧に進めることが必要です。この体制をより円滑に機能させていくことが、当金庫の経営の質を高めることに繋がりますし、農林水産業への貢献と健全な収益確保の両方を見据えた私たちの本質的な使命を果たし続けるための強靭な意思決定ができると考えています。

中期ビジョンの進捗はまだ「3合目」
これまでの歩みを土台に本格的な推進へ

写真:北林 太郎

 私たちは「2030年のありたい姿」を5つ掲げた中期ビジョン「Nochu Vision 2030」を策定し、その実現に向けた取組みを進めています。2024年度のスタートから丸2年が経過した今、「まだ3合目ほど」というのが率直な自己評価です。各テーマでの取組状況は本誌で後述していますが、総合的にはまだまだ道半ばであるものの、登頂への確かな足がかりを築きつつあるという段階です。この2年間は財務の回復を最優先事項として経営資源を集中してきました。そこから中期ビジョンの各テーマを本格的に推進していくステージに入ります。役職員一人ひとりが殻を破り、新たな発想で動き始めていることも、確かな変化として感じています。

 2026年度は中期ビジョン期間の中間に差し掛かるタイミングでもあります。世の中は常に動いており、今日的に何が必要かを議論しながら、今後の道のりをより実態に即した形に描き直す重要な機会として、この2年間の歩みをしっかり振り返るとともに、「2030年に何を実現していたいのか」という問いに改めて真摯に向き合いながら、残りの4年間をより良く歩んでいく決意を固めたいと考えています。

 ここまで触れてきた稼ぐ力の再構築や農林水産業の持続的な発展への貢献のベースとして、気候変動はじめサステナビリティ課題への対応は不可避かつ待ったなしと認識しています。この分野については組織横断的に取組みを進めていますが、当金庫単独で十分に対応できるものではありません。会員のみなさまをはじめ、お取引先、行政、アカデミア、さらにはほかの金融機関のみなさまなど、多様なステークホルダーのお力添えをいただきながら、取組みを推進しています。

 また、当金庫はJAバンク・JFマリンバンクの全国機関としての役割もあわせ持ち、JAやJFが地域や組合員・利用者の金融ニーズに適切に応えられるよう様々な金融機能を提供しています。足元では、特にアプリバンキングの機能強化をはじめとしたデジタルインフラの整備・拡充、将来の事業基盤の維持・確立に向けた様々な全国的な施策の企画など、JA・JFの組合員・利用者のみなさまに今まで以上に価値のあるサービスを提供していくための取組みを進めています。

 こうした取組みを確実に前へ進めていくためには、組織の土台そのものを強化していくことが不可欠です。その根幹にあるのは、やはり「人」であると考えています。近年、人的資本経営への関心が高まっていますが、当金庫においても、中期ビジョンのもとで役職員一人ひとりが主体的に挑戦し、能力を発揮できる環境を整備していくことが、これらの取組みを着実に前進させる原動力になると認識しています。

農林中央金庫ならではの強みを自覚し
次の100年を見据えた事業を展開

 昨年度のメッセージでもお話ししましたが、当金庫の最大の特徴は、協同組合という「相互扶助」を基盤とした協同組織(系統組織)の金融機関として、明確な目的と価値観を持って事業を行っている点にあります。法律上も「農林水産業の健全な発展と国民経済の向上に資すること」が使命として定められており、この使命があるからこそ、短期的な環境変化に左右されることなく長期的視点で事業を進めることができるとも考えています。あわせて、JA・JF・JForestなど会員のみなさまとの長年にわたる信頼関係のうえに成り立つ安定した調達基盤は、長期・分散での資金運用を可能にする土台となっています。この安定性があるからこそ、農林水産業や地域社会に対して腰を据えた継続的な支援ができます。JAバンク・JFマリンバンクに代表されるように事業を系統組織のみなさまと一体的に運営している点、そして100年を超える歴史のなかで数々の困難を会員のみなさまとともに乗り越えてきた経験と信頼の積み重ねも、かけがえのない財産です。

 もっとも、こうした強みを持続的に発揮するためには、それを支える組織のあり方も不断に進化させていかなければなりません。安定的な組織文化の強みを活かしながら、同時に多様な視点と柔軟な発想を積極的に取り込んでいく――そのバランスこそが、これからの私たちに求められる姿であり、更に強みを強化していく道だと考えています。つまり「安定性と柔軟性」「同質性と多様性」「伝統と革新」――変化が非連続に起こる時代だからこそ、これらを両立させながら前進し続けることが、当金庫の役職員全員に求められていると考えています。

 また、当金庫のグループ全体を見渡し、どこでどう稼ぐことが農林水産業者や地域のためになるのかという発想を常に持ち続けることが大切です。系統組織全体で収益源を多様化していくという長期的な視野も含め、「農林中央金庫だからこそできること」を問い続けながら、次の100年へ向けた新たな強みを意識的に創り出していく所存です。

 この1年間、多くの方にお会いするなかで、みなさまから異口同音に当金庫や系統組織への期待を伺い、改めて系統組織を含む自らの社会的な役割の大きさを痛感するとともに、その都度、身の引き締まる思いで過ごしてまいりました。農業・漁業・林業のいずれも担い手の減少や地域人口の減少という構造的な課題に直面していますが、JA・JF・JForestそれぞれの関係者のなかで「より良くするためにもう一段何をやっていくか」という前向きな問題意識が高まっていることも実感しています。これは大きな好機だと捉えていて、全国機関である私たちとして「どんな付加価値を発揮できるか」、商品力やシステム面での貢献、地域の個性を活かした多様な関わり方も含めて、系統組織全体での役割分担の機能を更に進化させ、より大きな力が発揮できるよう積極的に取り組んでまいります。食の安定供給は国の安全保障の根幹であり、その営みを金融の力を軸にしてしっかりと支え続けること、それが協同組織金融機関としての農林中央金庫の誇りであり、存在意義そのものです。

私たちに与えられた使命に向き合い、
全力を尽くしていく

 繰り返しになりますが、農林中央金庫の使命は設立時の100年前から変わらず、農林水産業の持続的な発展を支え続けることです。この原点に役職員全員で立ち返りながら、「稼ぐ力の再構築」と「農林水産業の持続的な発展への貢献」を両輪として力強く前進してまいります。復配の早期実現も、会員のみなさまへの大切な約束と受け止め、一日も早く実現できるよう取り組んでまいります。

 農林水産業を巡る環境は大きな転換点を迎えており、当金庫への期待と役割は一層大きくなっています。食の安定供給と地域社会の持続的な発展を支えるという使命に、私たちは全力で向き合い続ける所存です。これまで培ってきた強みを最大限に活かしながら、新たな強みを意識的に創り出し、次の100年を力強く築いていきたいと考えています。「農林中央金庫はしっかり前に進んでいる」とみなさまに実感していただき、そして更なる信頼を寄せていただける日が一日も早く来るよう、役職員一丸となって全力を尽くしてまいります。引き続きのご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申しあげます。

写真:北林 太郎

2026年7月

代表理事理事長 北林 太郎

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