自然資本・生物多様性

自然資本・生物多様性にかかる当金庫の認識とこれまでの取組み

当金庫は「持てるすべてを「いのち」に向けて。ステークホルダーのみなさまとともに農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます」をパーパスとして掲げています。自然資本・生物多様性は、豊かな食や環境をはぐくみ、もたらすために不可欠であり、「いのち」に直結する重要な課題ととらえています。

当金庫が定める「環境方針」※1では、生物多様性の喪失は私たちの「いのち」の源流が損なわれることに等しく、農林水産業を基盤とする当金庫は、この「いのち」を守るべく、事業活動における生物多様性へ配慮の必要性を謳っています。環境・社会リスク管理(ESRM)の枠組みにおいては、「投融資における環境・社会への配慮にかかる取組方針」(投融資セクター方針)において保護地域や森林等特定セクターにおける生物多様性の観点で留意を要する事業への投融資の禁止・制限を定めるほか、「赤道原則」※2の遵守を通じた環境・社会リスクの特定、評価を行うなど、投融資活動における負の影響回避に組み込んでいます(図表1)。

図表1自然資本・生物多様性にかかる当金庫の方針、取組み

昨今、グローバルには、自然資本・生物多様性の喪失を食い止め、回復基調に乗せるための「ネイチャーポジティブ」の機運が年々高まっています。2022年3月には、資金の流れをネイチャーポジティブに転換するためには情報開示が不可欠という問題意識の下、自然関連財務情報開示タスクフォース(=Taskforce on Nature-related Financial Disclosures・TNFD)のフレームワーク・ベータ版が公表されています。

また、同12月にはカナダ・モントリオールで、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が合意されました。 GBFのターゲット15では、金融機関や大企業にビジネスにおける自然資本・生物多様性にかかるリスクや依存・インパクトの開示を推奨しています。

IPBES-IPCCによる合同ワークショップ報告書では、気候変動と生物多様性の両課題の同時解決を目指すことの必要性、それが人々の良質な生活、ウェルビーイングにとって重要であること、および両課題を別々に扱うことのリスクについて言及されています(図表2) 。

図表2自然資本・生物多様性と気候変動および良質な生活の相互関係

  • 出所 IGES 2021. 生物多様性と気候変動 IPBES-IPCC 合同ワークショップ報告書:
    IGES による翻訳と解説 . 髙橋康夫 , 津高政志 , 田辺清人 , 橋本禅 , 守分紀子 ,武内和彦 , 大橋祐輝 , 三輪幸司 , 山ノ下麻木乃 , 高橋健太郎 , 渡部厚志 , 齊藤修 ,中村惠里子 , 松尾茜 , 森秀行 , 伊藤伸彰 , 北村恵以子 , 青木正人 ( 訳・編著 ) .公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES), 葉山 , 32p.

かかる情勢下、2022年度を通じて、当金庫は理事会傘下のサステナブル協議会、および理事会の諮問機関で外部有識者で構成されるサステナビリティ・アドバイザリー・ボードにおいて自然資本・生物多様性課題をテーマに計5回の議論を行い、経営レベルで課題の理解を深めるとともに、取り組み方針について協議を行いました。

当金庫はネットゼロへのコミットを通じた気候変動課題への対応に加え、ネイチャーポジティブに向けた取り組みを通じて、今後も気候変動と生物多様性の両課題の解決に向けた取り組みを拡充してまいります。

自然資本・生物多様性に対する当金庫の試行的アプローチ

当金庫は、自然資本・生物多様性にかかるリスクと機会の分析にあたり、投融資先による自然資本・生物多様性への依存ともたらすインパクトが投融資を通じて、リスクと機会として当金庫に波及するという関係性を、理解・分析の基礎としました(図表3)。

図表3自然資本・生物多様性と当金庫の関係性(イメージ)

  • 出所 Natural Capital Protocolなどを参考に当金庫作成

こうした関係性を踏まえ、当金庫はTNFDが開発中のベータ版において提唱するリスク・機会評価アプローチ(以下、LEAP)を参照し、当金庫のポートフォリオを対象に試行的な分析を行いました。LEAPは、金融機関においては事業の種類やエントリーポイント、分析の種類を検討するところから始まり、自然との接点の発見(Locate)、依存度と影響の診断(Evaluate)、重要なリスクと機会の評価(Assess)、対応し報告するための準備(Prepare)の一連の流れによって組織内部で自然資本関連のリスクと機会を把握するものです(図表4を参照)。

図表4TNFDベータ版におけるリスク・機会評価アプローチ(LEAP)の概要と当金庫の試行的アプローチ

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  • 出所 The TNFD Nature-related Risk & Opportunity Management and Disclosure Framework: Beta v0.3 Release エグゼクティブサマリー日本語訳P.12-13を参照して、当金庫作成

当金庫はポートフォリオにおいて優先的に分析すべき領域の絞り込みを行うため、ENCORE※3等を活用したセクター単位での依存とインパクトの分析を行いました。

  • ※3 Natural Capital Finance Allianceなどが提供する自然関連のリスク管理分析ツール、Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure

ENCOREを活用した当金庫のポートフォリオ分析と得られた示唆

ポートフォリオの依存の傾向

広範なセクターで水資源に大きく依存していることが分かりました。製品生産や安定した稼動、サービス提供のために水資源に依存する食品・飲料(生活必需品)、電力・ガス・水道(公益事業)などはもちろん、一見して自然との関わりが少ないと思われているセクターでも、「洪水・暴風雨対策」、「水質」などの生態系サービスの享受を通じて、水資源に依存しているためと考えられます。

図表5当金庫のポートフォリオが依存する自然資本・生態系サービス(イメージ)

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ポートフォリオのインパクトの傾向

IPBES※4が提示しているインパクトドライバー(自然に対してインパクトをもたらす要素)である「土地利用の変化」「資源利用」「気候変動」「汚染」「その他(外来種など)」を参照した結果としては、建設・機械、食品・飲料、化学・素材、電力・ガス・水道の4セクターが、水利用、GHG排出などを通じて特に自然資本・生物多様性に大きなインパクトをもたらしていることが分かりました。

  • ※4 Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム)

図表6当金庫のポートフォリオが自然資本にもたらすインパクト(イメージ)

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  • 出所等 ENCORE等から当金庫作成。貸出金、株式、債券が対象で、ソブリン債、政府機関等への投融資等は除く。図表5、図表6ともに2021年3月末時点の当金庫のポートフォリオにおける生態系サービス、自然資本への依存、およびインパクトの状況をセクター別に分析したもの。 ただし、図表における各セクター毎のエクスポージャー量(ボックスの大きさ)は図表作成にあたり等ウェイトに調整したもので、当金庫の基準時点のポートフォリオにおけるセクター別のウェイトを反映したものではない。

分析を通じて得られた示唆を踏まえた取組み

ポートフォリオの分析を通じて、自然資本・生物多様性に特にインパクトをもたらしている先述の4セクターにフォーカスしつつ、ポートフォリオ全体で強い依存が確認された水資源や気候への依存を検討していくことを当面の分析の軸としました。

更なる分析の解像度向上に向けては、依存とインパクトについて各セクターにおけるサブセクター、事業活動単位での分析や、投融資形態(直接、間接等)、および分析対象(エクスポージャー)のロケーション(国・地域や事業活動・プロジェクト・生産設備等の位置情報)を特定する必要性も改めて認識しました。

当金庫では、ロケーション情報のデータ制約等を踏まえ、ポートフォリオにおいて特に依存が大きい自然資本である「水資源」、およびインパクトの観点でも影響が大きい「電力・ガス・水道セクター」に着目し、洋上風力発電へのプロジェクトファイナンスを対象としてLEAアプローチによる分析を試行しました。

洋上風力発電を例としたLEAPの試行

図表7北海における洋上風力エクスポージャーと保護エリアのマッピングの例

  • 出所 ArcGIS、UNEP WCMCデータ(https://resources.unepwcmc.org/search?theme=nature-conserved)を活用して当金庫作成

当金庫の今後の取組み方向

2022年11月に当金庫エグゼクティブアドバイザー秀島弘高がTNFDタスクフォース・メンバー※5に選出され、グローバルな開示枠組みの開発にも貢献しています。また、当金庫はTNFDコンサルテーショングループ・ジャパン(通称:TNFD日本協議会)の共同招集者として、国内でのTNFDのベータ版にかかる普及や理解促進に取り組んでまいります。

2023年2月には金融機関として投融資先企業における事業活動のネイチャーポジティブ転換を促進、支援することを目的とし、株式会社三井住友フィナンシャルグループ、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社、株式会社日本政策投資銀行とともに「Finance Alliance for Nature Positive Solutions」(略称 FANPS、日本語名:ネイチャーポジティブ金融アライアンス)を発足させました。

今後もこれらの取り組みの拡充に加え、TNFD開示枠組みの開発状況や自然資本・生物多様性分野における官民の議論の動向をフォローし、リスクと機会の把握や分析の高度化等を通じて、ネイチャーポジティブの実現、当金庫のパーパスの実現に向けた取り組みを進めてまいります。

  • ※5 TNFDフレームワークを検討するメンバーとして各国・各地域から選出された40名で構成

トピック

TNFDの開発・普及に向けた取組み

当金庫はTNFDタスクフォース・メンバーとして、グローバルなフレームワークの構築に参画するとともに、イベント登壇等を通じて、国内におけるTNFD、自然資本・生物多様性にかかる開発・普及活動にも積極的に取り組んでいます。一例として、2023年5月に開催された経団連自然保護協議会役員会では、タスクフォース・メンバーを務めるエグゼクティブアドバイザーの秀島が講師として参加、TNFDβ版0.4のポイント解説等を行いました。

当金庫エグゼクティブアドバイザー 秀島 弘高

トピック

生物多様性保全をテーマとする世銀債への投資

世界銀行(正式名称:国際復興開発銀行)が「生物多様性の保全の啓発」を目的に発行するサステナブル・ディベロップメント・ボンドへの投資を実施しました。本債券への投資を通じ、世界銀行と当金庫が共に開発途上国における生物多様性の保全やその重要性を啓発していくことを目指します。

【参考:プロジェクト事例】

  • ブラジルでは、セラード生物群系における統合的景観管理アプローチを採用し、生息地の復元や低炭素農業に関連する技術支援を通じて4,000人の土地所有者や農業生産者の低炭素農業を支援しています。
  • トルコでは、自然を活かして農村地域の貧困と脆弱性を同時に削減するプロジェクトが行われており、森林景観の回復・雇用の創出・持続可能な農業のためのトレーニング・灌漑と水供給の改善を実現する回復力の高いインフラ構築等を実施しています。

*上記の参考事例については、プロジェクト事例紹介のみを目的としています。本債券で調達された資金の活用が、上記プロジェクトまたはその分野に限定されるものではありません。

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