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経営管理委員 座談会

多様性を力に、信頼を未来へ
農林中央金庫だからこそできること

写真:農林中央金庫のロゴが掲げられている壁の前に立っている3名。左から経営管理委員 國廣 正、経営管理委員 坂東 眞理子(2026年6月退任)、常務執行役員 川島 憲治

農林水産業と国際金融を併せ持つガバナンスのユニークさ

川島

世の中ではコーポレートガバナンス・コードをはじめ、企業価値の向上に向けたガバナンスのあり方の議論が加速しています。当金庫の場合は、根拠法である農林中央金庫法が本年4月に改正されたことを受けて、外部有識者の方に理事として加わっていただくなど、ガバナンスのステージが大きく変わる局面も迎えています。私は経営管理委員会の事務局担当役員としてガバナンスの高度化に取り組んでいますが、本日は上場企業等での社外取締役の経験が豊富なお二人に、当金庫の組織の特徴や期待事項等についてお伺いしたいと思います。 質問に入る前に、当金庫のガバナンスについて少し補足します。当金庫において一般企業の取締役会に相当する意思決定機関は、経営管理委員会と理事会の二つであり、それぞれ役割を分担しています。

写真:農林水産業と国際金融を併せ持つガバナンスについて語る常務執行役員の川島憲治

端的に言うと、経営管理委員会が重要な業務方針等の決定と理事の監督、理事会はこうした方針に基づく業務執行を理事の相互監督のもとで担っています。こうしたガバナンス体系がスタートしたのは、2001年に農林中央金庫法が全部改正されたことを受けて、経営管理委員会が設置されたことが起点にあります。設置した趣旨は二つあり、一つは当金庫の会員の意思を業務運営に反映するという点です。もう少し補足しますと、その当時に改正された再編強化法※によって当金庫にJAやJF等への指導権限が付与されるとともに、系統信用事業を一体的かつ効率的に運用していくためのJAバンク・JFマリンバンクの仕組みもスタートし、当金庫は全国機関としての更なる役割発揮をしていくことになりました。こうした役割を適切に果たしていくために、会員の意思を反映する機関として経営管理委員会が誕生したという経緯です。 ※農林中央金庫及び特定農水産業協同組合等による信用事業の再編及び強化に関する法律 もう一つは、資金運用をはじめ、当金庫の業務は国内外の金融市場と密接な繋がりがあるため、会員の代表者のみならず、金融・経済分野の専門性を有する方にも委員に加わっていただいているという点です。

前置きが長くなりましたが、こうしたガバナンスの枠組みについて、一般企業との違いも含めてどのように捉えていますか。

國廣

経営管理委員会の特徴は、会員の代表者と金融分野等の有識者が同じテーブルで意思決定に関与している点にあります。農林中央金庫は、系統組織の一員であるため、一般の株主に相当する会員の意思を経営に反映することはとても重要です。一方で、国内外の金融市場で大規模な資金運用を行っており、その判断には高度な専門性が不可欠です。この両者をバランス良く機能させるために、現在のような枠組みが採られており、また株式会社の取締役会等とは違うユニークな点だと考えています。更に重要なのは、農林中央金庫の公共性です。食料なしに生きていける人はおらず、人々の生活や食を支えている、つまり“いのち”を支えているのが農林水産業です。その農林水産業が基盤にある農林中央金庫にとって、そのステークホルダーは実質的に全国民とも言えるかもしれません。その役割は単なる金融機関にとどまらず、収益を確保し、農林水産業を支えるという社会的使命を果たす必要がある――これら二つを前提としたガバナンスである点が、極めて特徴的だと思います。

坂東

私もその点は同様の感想を抱いています。農林中央金庫は、JAやJFなどの系統組織が会員であり、その会員が地域で築いてきた信頼関係のもとで組合員や利用者から預かった貯金等を更に預かっている立場です。それらをもとに運用を行い、収益を還元するという構造は、自らの店舗で預金を集め運用する一般の銀行とは大きく異なります。JA、JFそれぞれの系統組織と役割分担している点、そして信用事業(金融事業)はやっていないものの、同じ会員であるJForestとも密接な関係にある点が一見すると分かりにくいのかもしれません。この点は農林中央金庫の職員の方達も十分認識しておいてほしいと思います。

会員からの支えを忘れず次のステージに向かって

川島

坂東委員は9年、國廣委員は3年の間、経営管理委員を務めています。経営管理委員会で交わされている議論について印象的だった内容を教えてください。

坂東

やはり2024年度の赤字決算への対応です。それまで長く低金利環境が続いていたことから、農林中央金庫は、比較的安全資産とされ、相対的に利回りの高い外国債券の運用が拡大していました。しかし、コロナ禍後の急激な欧米金利の上昇によって市場環境が激変しました。そうした環境の変化のなかで、迅速に対応しなければならないという状況は組織としても大変な事態だったと強く印象に残っています。

國廣

私も同じです。特に外国債券の評価損が拡大するなかで、その処理をどうするかは極めて重要な論点でした。最終的には大きな損失を計上する決断となりましたが、やらなければいけなかったことだったと思います。
改めてあの当時、執行を監督する経営管理委員として何ができたかと自問しますと、私が心がけたのは「先送りしない」ということです。執行としては大幅赤字の蓋然性が高まるなか、会員にも出資を求めざるを得ない状況で、それを乗り越えるために様々な経営判断を下す必要がありました。委員会でも当然ながら色々と厳しい意見が出ましたし、会員の代表者である委員の心境は非常に複雑だったのではと推察します。農林中央金庫の財務回復への取組みは今も緒についたばかりです。決して赤字を是とするわけではありませんが、先送りせずにしっかりとやるべきことをやった点は良かったと考えています。最終的に、会員には多大なご心配をおかけするなかで、約1.4兆円の資本増強にご協力いただきました。このことを、農林中央金庫は「良かった」で終わらせるのではなく、「会員にしっかり支えていただいた」という意識を忘れずに、次に向かっていくことが重要です。

坂東

会員はそれぞれの立場で色々な経営課題を抱えているにも関わらず、それでもあの状況下、短期間のうちに増資に応じていただいたということは、先人の方々が培ってきた強固な信頼関係があってのことだと思いますし、協同組合における相互扶助の精神を象徴しているとも感じました。一般の企業で同様のことが起きた場合、とてもこうはいかなかったと思います。ただ、そこに甘えてはいけません。

川島

資本増強については本当に短期間で会員のみなさまからご協力をいただきました。私自身、反省はもちろんですが、財務の立直しを着実に進めて、恩返しをしなければいけない、そう強く感じています。

大きな環境変化のなかで必要なことは人材の「多様性」

川島

冒頭で触れましたが、当金庫を取り巻く内外の環境が大きく変化している状況を踏まえ、お二人から見た当金庫の課題について忌憚のないご意見をお聞かせください。また、より良いガバナンスを構築していくためのご助言もお願いいたします。

坂東

今後に向けて最も重要だと感じているのは、人材の多様性の確保です。農林中央金庫が関わる国際金融市場の環境は今後更に複雑化・高度化していくと考えられます。そのなかで、従来の育成モデルだけでは対応が難しくなる可能性があります。
内部育成に加え、外部人材の活用や他組織との連携など、多様な手段を組み合わせることが大切です。今回のように理事だけではなく、職員においても女性や高度人材など多様な人材を確保していくことが重要になると考えています。

人材の多様性について語る経営管理委員の坂東眞理子

國廣

坂東委員に続けてお話しすると、多様性は非常に重要ですが、実際に取り入れていくことは必ずしも容易ではありません。多様な人材が集まることで、思考の前提や価値観が異なり、議論の効率が低下する場面もあります。しかし、その非効率性こそが重要です。
従来のように暗黙の了解や「あうんの呼吸」に依存した意思決定は、一見効率的ですが、前提が揺らいだときに大きな誤りに繋がるリスクがあります。多様性を前提とした議論では、考え方や判断の背景を一つ一つ確認しながら進める必要がありますが、それが結果として組織のレジリエンスの向上、つまり変化への対応力に繋がります。そういう意味で、執行を担う理事会に外部の方が加わるのは一つのターニングポイントだと思います。
農林中央金庫が相手にしている国際金融は日々変化の連続です。世界で戦うための力をもたらすものとして、多様性の拡充は意識的に行っていく必要があります。

坂東

そうですね。更に言うと、上場企業においては有価証券報告書に女性管理職の比率や女性役員数を載せるという政府の指針がありますが、その動きに拍車をかけているのは物言う株主の存在です。非上場でありこうした外部からの強い要請がない農林中央金庫でも、系統組織の手本となるよう多様性をしっかり推進していくことが重要です。
組織のなかで多様な方々が増えるということは、それだけ多様な価値観が入ってくることになります。そうなると、これまでは「言わなくても分かるはず」という暗黙のルールで通用しましたが、それを明確に可視化する必要があります。これは手間暇かかるので「もういいや」となりそうですが、諦めず、面倒くさがらず、「やらなければいけない」とマインド変革を起こすことが大事です。

川島

理事会や経営管理委員会などのガバナンスの仕組みだけを何か変えれば、それで全部うまくいくのではなく、ガバナンスを構成しているのは人材であり、役職員全体の多様化こそが重要とのお考えですね。

中長期の視点で農林中央金庫だからこそできること

川島

では、ここからは未来の話として、お二人がこれからの当金庫に期待することをお聞かせください。

坂東

大規模化や効率化を通じて食料安全保障上の強靱な産業となるように、農林水産業を守り育てること、そこに農林中央金庫が貢献していくことは非常に大事です。ただ、そこだけにとどまらず、高齢化に伴う担い手不足、耕作放棄地、そして環境課題など、地域社会や環境との関係性も含めた広い視点で価値を創出していくことを期待しています。色々な課題を抱える農林水産業・地域に向き合いながら、都市と農村・漁村とを橋渡しするような役割を、系統組織と協力しながら発揮していってほしいですね。
非上場である農林中央金庫は、短期的な収益に縛られず、中長期的な視点での施策を実行できる強みを持っています。その強みを活かし、これからの日本の農林水産業、そして社会・経済全体を健全・強靱にしていくためにできることは何か――3年、5年では効果が見えないかもしれませんが、次世代に向けてできることを考えてぜひ実践していってほしいです。

國廣

私はここ十数年、週末農業をやっています。その地域の集まりにも顔を出しますが、みなさん非常にオープンマインドです。その背景には、様々な事情で農業を辞める人もいるなかで、都市部からの新参者を歓迎する空気もあります。
こうした経験を踏まえたうえで、農林水産業や地域をどう発展させていくかという観点で考えると、やはり坂東委員が仰るように、農林水産業や地域がもっと外の人と緩やかにでも繋がっていくことが大事です。たとえば、農業体験は良い例で、農業そのものに加えて自然や環境、そして食に対して、体験を通じて思いを馳せてもらえることに繋がります――これは農林中央金庫の本業ではないかもしれませんし、少し切り離して考えるべきことかもしれません。また、こうした取組みは収益をあげているからこそやれることです。

中長期の視点で農林中央金庫に期待することを語る経営管理委員の國廣正

坂東

國廣委員の仰るとおりです。緩やかに関わりを持つ人を増やすための策を打ち出すとしてもお金がゼロではできません。たとえば、農林中央金庫のように、地域資源を知り、人的ネットワークと資金を有している組織の取組みが期待されます。そのためにも資金運用でしっかり稼ぐ役割を果たすことも必要です。
農林中央金庫は自然由来のカーボンクレジットを創出・販売する支援に取り組んでいますが、農林水産業をみなさんで守り育てていくための環境価値をマネタイズするのも重要な活動です。農林中央金庫にはそのための新たな仕組みを研究・開発することにも挑戦してもらいたいです。難しいですが、農林水産業や食関連のビジネスだけでなくて、範囲を広げて心身のウェルビーイングなど、人々のくらしの満足度を上げていくことも含めて、ビジネスを拡大させる可能性にも挑んでほしいですね。

國廣

農林中央金庫は、国内のメガバンクとその資産規模や世界の市場を相手にしている点では共通する部分がありますが、組織の成り立ちを踏まえた事業活動の起点を含め、こうした金融機関との違いをどう打ち出していくのかも重要です。
系統組織との強い結びつきや一体的な事業運営を行うなかで、農林水産業の現場、更には食農バリューチェーン全体に刺さりこんでいけるという点は、農林中央金庫だからこそできる強みの一つだと思います。
ここまで私と坂東委員から様々なチャレンジの可能性について意見を述べてきましたが、経営管理委員として、これからも農林中央金庫の様々なチャレンジを後押ししていきたいです。もちろん先に触れた財務の立直しなど目下の課題があり、着実に克服していく必要がありますが、だからといって縮こまっては駄目です。自信を持ってチャレンジしていただく――その背中を押すことも私たちの大事な役目です。

川島

本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。改めて、当金庫は、会員のみなさまに支えられて成り立つ組織であると同時に、農林水産業と食を通じて社会全体を支える公共的な役割を担うことを認識できました。特に、2024年度の資本増強の経験は、私たちが会員のみなさまとの信頼のうえに成り立ち、相互扶助のもとで支えられていることを再認識する契機であり、この信頼に応えていく責任の重さを改めて感じています。
また、ご指摘いただいた多様性の重要性については、単なる人材構成にとどまらず、組織の意思決定の質を高め、変化に対応できる強い組織をつくるための本質的な課題であると受け止めています。
今後は、財務の立直しを着実に進めることを大前提としながらも、当金庫ならではの強みを活かし、中長期的な視点で農林水産業と地域、更には社会全体の持続的な発展に貢献していけるよう挑戦を続けてまいります。

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