日本は国土の約3分の2が森林で、森林の約7割を民有林が占める。戦後に植えられた人工林が伐期を迎えるなか、経済性の問題等から一部を除き民有林の整備は放置されてきた。国内の荒廃した民有林における公益性の発揮を目指す活動に対して助成される「公益信託農林中金森林再生基金(農中
日本の森林問題
民有林と山村地域の復興に向けて
中能登地域は、石川県の能登半島中部に位置する。森林面積が51,299ha、森林率は60%、比較的緩やかな地形には、多くのスギ、アテ、ヒノキなど人工林が植林され、人工林率は51%と県平均を上回る。特にアテ(能登地方における「ヒノキアスナロ」の呼び名)は流通段階で高級材「能登ヒバ」として知られている。しかし、日本では1980年代をピークに木材価格が低迷し、林業の収益性に黄色信号がともる。森林組合が民有林を整備するには森林所有者の合意が必要だが、森林を整備してももうからない時代となり所有者の関心は薄れていった。こうした民有林の荒廃は、環境保全や水源
コマツとの包括連携協定
農中森力基金を活用したドローンの導入
こうしたなか、石川県は課題解決に向けた突破口の一つとして、2014年2月に石川県、石川県森林組合連合会、コマツの3者間で林業に関する包括連携協定を交わした。
石川県はコマツ創業の地だ。「包括協定は事業ではなく、地域貢献、CSR活動の一環です。コマツの生産技術力やICTを活用して林業の現場を活性化できれば」とコマツ粟津工場改革室の石森正俊さんは語る。2015年4月には、森林組合が未利用間伐材をバイオマスチップ化し、粟津工場に導入された高効率のバイオマス蒸気ボイラーシステムで利活用を始めた。
次なる包括連携協定の成果は、2018年度農中森力基金を活用した中能登地域の民有林整備で発揮される。コマツのドローンを用いた森林資源量調査だ。助成対象となった30haの民有林整備は1年計画で、中能登森林組合によるハード事業(作業道開設、搬出間伐、除伐)と、石川県森林組合連合会によるソフト事業(説明会開催、境界測量、森林調査、森林資源量調査など)が行われた。なかでも、長年の放置によって不明確になっている所有地の境界、樹種や本数といった民有林の基礎データを収集する森林資源量調査(樹種、1haあたりの本数と材積、平均樹高など)は、将来に向けて要となる事業だ。
現場力と民間企業の技術が融合
ドローンで数千本の樹木を短時間に把握
「かつての森林資源量調査は、人が実際に樹木の高さを測るなど、全てが手作業でした。ドローンならば10分で数千本の樹木の材積を把握できます」と石川県森林組合連合会の坂井亨さんは圧倒的な効率性を強調する。近年は航空機を使ったレーザー撮影も行われてはいるものの、ドローンの運用コストの低さ、また天候が変わりやすい北陸地方で急な予定変更に柔軟に対応できる機動力は大きなメリットだ。
実際の飛行では30haを12カ所に区切って撮影したが、コマツの石森さんは自らも森林測量のノウハウを多く得ることができたと振り返る。「今回のドローンは、コマツの『スマートコンストラクション』で使用しているドローンを、森林撮影用にカスタマイズしたものです。でも実証実験では、空撮の最適な高度は120mぐらいであることなど、現場の皆さんから教わることがたくさんありました」。
石川県森林組合連合会で最初にドローンの操縦を習得した木村一也さんは、「技術が人をつなげた」と感じている。「ドローンの最先端技術で森林情報を“見える化”できたことは、今後の管理体制において共有財産であり、また森林所有者を含む地元住民の皆さんにとって、さらなる森林再生への期待につながりました」という。助成事業で整備された森林を見た土地所有者たちからの要望で新たな整備事業も始まった。「中能登森林組合の努力もあり、今回の助成事業を通じて地元の皆さんとの連携が強まりました。しかし、そこにはコマツの技術革新への取り組みがあってこそでした」と木村さんは語る。
未来への足掛かりをつくる森林資源量マップの作成
森林資源量調査に関しては、コマツで解析されたドローンの撮影データを現在とりまとめており、今後、森林資源量マップが作成される予定だ。現時点ではスギの材積推定式から算出されたデータを補正してヒノキやアテ等の材積を割り出す方法を検討しているが、現場の大変さを肌で感じた石森さんは「他樹種の材積算出にも適応させ、さらにデータの精度を高め、林業の生産性向上と市場規模の拡大に貢献したい」と語る。その一方で、今回の事業を通じて、石川県森林組合連合会は農中森力基金の特長にも言及した。「助成金の活用範囲の幅が広く、ソフト事業では小さな面積ですが、県と連携してきのこ山再生に取り組むといったプラスアルファの事業にも予算を活用するなど、地元の皆さんに非常に喜ばれました」(坂井さん)。さらに木村さんは「基金の助成申請書には、森づくりの長期ビジョンを明記しなければならず、それを通して、山の将来像を描く機会が持てたことは大変有益でした。今回は特に択伐林型を目指して、不良木にとどまらない積極的な間伐を推し進めることができました。今はまだ、現場の施業プランナーも目先の森林の手入れに目が向きがちですが、長期的視点で山をどう育てて林業を再生していくか――木材として利用する主伐や択伐に向けてプランを考える良い契機となりました」と語る。
森林の育成は100年単位の計画性が求められる。森林の現場にはさまざまな課題があるなか、新しい技術や他産業との連携が課題解決の力となり、現場関係者や地元住民が将来ビジョンを描くことにつながる。さらなる多面的な連携が求められる時代だ。
行政担当者に聞く
森林の再生林業が地域の魅力ある産業として発展していくために環境保全と生業という両面から全力で支える
農中森力基金は活用範囲が幅広く使いやすい。つまり、森林の現場が地元住民と連携しながら課題解決のためにトライできる環境を作っていただいていると感じています。今回の助成事業では、コマツと連携したドローン活用で森林調査を効率化しました。地域の過疎化が進むなか、今後はさらに人の手に頼らない森林整備が求められています。そのため石川県では現在、金沢工業大学等と協働でAIを活用した森林境界の推定技術等の開発を進めています。
コマツとの包括連携協定については、将来に向けて地元の川上と川下、森林関係者や製材業者等が一体となった需給マッチングを行う仕組みづくりなど、さまざまな可能性があると考えています。今後も、現場の発想で多種多様なチャレンジを行い、その成果を地元の方たちに評価していただくことで、さらに地元と一体となった取り組みが広がっていく――これが理想です。そのためにも、農中森力基金の取り組みは、ぜひ、継続していただきたい。
林業は、森林の多面的機能の維持による環境保全と
農林中央金庫とは
当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。
この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。
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