ウッドソリューション・ネットワーク(東京都)
植林→伐採→搬出→製材→加工→流通→消費。家の柱にせよ家具にせよ、あるいは箸1膳にせよ、木から生まれる製品はすべて、こうした過程を経て森の中から人の手に渡ります。国産木材の価値を高めていくこのウッドバリューチェーンの全体において需要の拡大、関連産業の振興、そして地域の活性化を実現させる──この目標のもと、産業・学術・金融が連携して活動を続けているプラットフォームが、ウッドソリューション・ネットワーク(WSN)です。
2000年代に入るころから欧米を中心に増えているのが木造ビル。環境問題への対応が強く求められることを受け、建築の分野でも鉄やコンクリートに比べて環境負荷の低い木材の活用が進んでいます。日本でもここ数年、実例から計画まで、さまざまな木造ビルが登場するようになりました。
とはいえ、日本の木材需要はまだ大きく増えてはいません。2018年の総需要は8,248万m3で前年比0.8%増。ピークだった1973年の12,102万m3と比べると3分の2強です。背景として大きいのは、人口の減少にともなって新設住宅着工戸数が減少傾向にあること。戦後に植えられた森林が伐採の時期を迎えるなか、必要なのは戸建て住宅以外の需要を生み出すことです。
こうした背景から農林中金は2016年10月、東京大学に「木材利用システム学寄付研究部門」を設立するための寄付を実施。同時にこの研究部門とも連携するWSNを立ち上げました。これは、木材の利用拡大に向けた各種課題の解決を目指すプラットフォームで、林業生産者団体、木材の加工・流通に従事する製材会社、家具メーカー、商社、ゼネコン、住宅メーカーなど木に関わる31の企業・団体が参画しています。
こうした企業・団体はWSNの「構造材分科会」「内装材分科会」「相互理解分科会」に参加して活動しています。たとえば構造材分科会は、前述の木造ビルのような事業用の中・大規模木造建築物の普及に向けて2019年度、事業用建築の施主を対象とした非住宅木造推進アプローチブック『時流をつかめ! 企業価値を高める木造建築』を発行しました。
国内の代表的な事業用木造建築物をとりあげ、木造でもコストが抑えられること、国の補助金や税務・会計上のメリットなどがあることを紹介。工事費や耐震性、耐火性、遮音性などについての誤解を解く企画も盛り込まれています。
また、相互理解分科会では、供給側の森林組合が需要側の加工・流通企業に、消費者ニーズについて直接ヒアリングする機会などを提供。「国産材活用への“本気度”をあらためて実感した」(森林組合関係者)といった効果が生まれています。
WSNの活動は2019年10月に第2クールに入りました。第1クールに制作したアプローチブックを活用した行政向け普及活動の進展や、時流に沿った新たなテーマの採択・着手(森林環境譲与税の有効活用、国産材の海外需要開拓戦略、SDGs・ESG投資から見た木材利用)等、会員企業・団体が連携し、木材利用拡大に向けた各種取組みを推進しています。
“木”に対する農林中金の支援はこれまで、森林整備など川上サイドに重点を置いた活動が中心でした。WSNは、川下サイドでの木材需要の掘り起こしにも力を入れていくうえでの重要なプラットフォームとなっています。
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