現場の声 肉用牛生産(福島県)

肉用牛生産(福島県)

 人口約6000人の村に肉牛の繁殖農家が200戸規模、肥育農家が12戸──福島第一原子力発電所事故が起きる前、福島県飯舘村は「飯舘牛」などのブランド牛や仔牛の生産が盛んな村でした。

 この原発事故により牛農家も移転や事業の休止を余儀なくされますが、避難指示は2017年3月末に解除。村民や生産者の帰村により、現在は人口が1200人、肉牛の繁殖8戸、繁殖・肥育1戸、乳牛の育成・繁殖1戸と、畜産の村の復興が始まっています。

 この飯舘村で山田豊さん(37)と天野浩樹さん(32)も2019年、肉用牛の繁殖をスタートさせました。飯舘村出身の山田さんは大学卒業後、父親が営む牛の繁殖とタバコ栽培の複合経営に参画。「自分の代では牛の繁殖をメインに」と海外研修を受け、優良な母牛を購入した直後に3.11が発生しました。

 農業や畜産は当面不可能だと考え、「せめて牛に関わる仕事に」と京都の精肉店に就職。しかし、2016年には両親と暮らすため妻子とともに福島市に移り、肉牛繁殖の再開を目指すようになります。

 一方、天野さんは埼玉県生まれ。福島県相馬市で肉用牛繁殖と稲作を営む祖父を手伝おうと農業の世界に飛び込みました。稲藁を牛の飼料とし、牛糞由来の肥を田畑の肥料とする循環型農業を実しようと飼育頭数を増やすことを決め牛舎の拡張を計画していたとき、東日大震災と原発事故に見舞われます。

 相馬市は避難区域外で稲作と畜産は継続できたものの、牛舎拡張に必要な広い敷地を見つけるのに四苦八苦。そんなとき、相馬市に避難していた飯舘村の畜産家から、避難指示の解除により村で畜産が可能になることを聞きつけます。そして、村では繁殖技術の高い農家が多く、放射線対策もしっかりしていることを知り、むしろ安心度が高いと判断しました。

 飯舘村での肉用牛繁殖と農業に取り組み始めた山田さんと天野さんは、村役場や地元のJAふくしま未来などの支援を受け、土地の取得や牛舎の建設を計画。農林中金福島支店は、その資金調達を日本政策金融公庫と連携し、村やJAとともにサポートしました。

 たとえば、事業計画の策定サポート。制度融資や国の交付金を活用するには、15年に及ぶ長期計画が必要となります。母牛の購入から出産、仔牛の売却、母牛の入れ替えの時期までを考慮した綿密な立案を求められましたが、福島支店の担当者が粘り強くサポートし、資金調達は無事、実現しました。

 山田さんの新たな牛舎は2019年4月に竣工。すでに飯舘村に一家で移住している天野さんも、取得した土地に2020年の秋、牛舎が完成する予定です。30代の若いふたりの挑戦は、畜産の村の再興、そして飯舘牛ブランドの復活を大きく加速させるもの。農林中金は、ふたりの事業の法人化までを見据え、今後も村やJAふくしま未来とともに支援を続けていきます。

一足先に竣工した山田さん(左)の牛舎で語り合う山田さんと天野さん
牛舎は、飯舘村の施設として建設された
震災前、村内限定販売で人気だった飯舘牛のオブジェ

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