農業への貢献~「アグリシードリース」を活用した支援
平成26年2月、JA佐波伊勢崎の管内は、未曽有の大雪災害に見舞われ、特に園芸施設は、約6,700棟のハウスが壊滅的な被害を受けました。総額で100億円を超える規模の施設や作物の被害は、国からの特別災害助成金を受け、JA佐波伊勢崎も積立金から約2億円を還元しました。ハウスの全壊から懸命に立ち直り、平成28年から本格的に営農を再開した地域の担い手、(株)長沼農園に話を伺いました。
父から息子へ、バトンタッチ直後に起きた大雪災害
「私は高校卒業後に家業を継ぎ、農業に携わって45年です。かつて、この辺りの夏の農業は養蚕業が主体で、今と同様に米麦も盛んでした。しかし、減反政策で米価が下落傾向となり、安定的な農業経営の柱をつくるべく、私の代からはハウス栽培に露地栽培を加えて、1年を通じてニラを収穫するようになりました。」((株)長沼農園 長沼孝(ながぬま たかし)会長)
「実は、農業を継ぐはずだった兄が、兼業のつもりで就職した消防士の仕事に、やりがいを感じるようになったんです。そんな折、自分は大学で、日本の農業の現状を知りました。そして、徐々に、農家に生まれたのも何かの縁で、自分にもできることがあるんじゃないかと考え始め、家族で話し合ったうえで、大学卒業後に農業を継ぎました。
現在、就農して7年目の28歳ですが、26歳の時に父から社長を継ぎました。正直、まだ野菜の栽培経験も浅かったし、こんなに早く世代交代するとは想像していませんでした。親子だけに、農業について遠慮なく自分の意見もぶつけましたし、時には喧嘩になることも。それを『見所とやる気がある』と思ってもらえたのかもしれませんが、今では、若くして責任を任せてもらっていることも、やり甲斐だと感じています。」((株)長沼農園 長沼芳憲(ながぬま よしのり)代表取締役社長)
「兄弟のいずれかに継いでほしい気持ちはあったので、嬉しかったですね。彼は若いながらも頑張っているし、思い切って早い段階で社長を任せることにしました。ただ、任せた直後に今までにない大雪が降り、しかも被災したのは、ちょうど前年にニラ施設の規模を拡大した後で、ハウスは全滅でした。」(長沼会長)
発想を転換し、ピンチをチャンスに切り替える
「分かっていたつもりでしたが、農業は自然の影響を直接的に受ける仕事だと痛感しました。でも、落ち込んでいる暇はなかった。地元で施設栽培を行う若い世代の仲間と、すぐにハウスの復旧や補強に取り掛かると同時に、営農再開まで時間があったので、これを機会に施設栽培をあらためて勉強しようと、他県の農家に積極的に視察に行きました。
そこで感じたのが、大消費地である東京から遠い東北・九州などの農家さんは物流コストがかかる分、面積当たりの収量を上げるために栽培技術を、本当に研究されています。東京圏に近いからと群馬県の自分たちが井の中の蛙になってはいけない。外に出て学ぶことは大事だと、強く感じました。
今年から2年ぶりに通常レベルの収穫に戻っています。営農再開に先立ち、JAバンクのアグリシードリースで大型トラクターを取得しました。ニラ、ネギ、ゴボウを対象とした経営耕地面積は、現在の4.9haから、平成30年には8haに拡大する目標を掲げています。雪害対策として、施設を補強するなど工夫を重ねていますが、農業は自然に左右されるものです。アグリシードリースのような助成事業は、特に被災時の農家にとって大きなメリットだと思います。」(長沼社長)
父から息子へ、そして孫の代へと夢をつなぐ
「結婚して子どもが生まれると、これまで以上に健康で新鮮な野菜を消費者に届けたいと思うようになりました。群馬県は『味にら』をブランド化しています。自分なりのテーマとして、作物を最適な状態で育てることに力を注いで作っているので、ぜひみなさんにも食べていただきたいですね。
夢は、自分の子どもが継ぎたいと言ってくれる農業にすることです。大学では経営学を学び、収益管理の重要性も認識しているので、農業経営のIT化も進めています。今、農業では365日休みがないのが当たり前ですが、自分なりに改革を進めることで、きちんと休みが取れて、収入も得られる農業にして、子どもの世代にバトンを渡せたらと思います。
一方で、父に見習いたいのは、仕事に真摯に向き合う姿勢です。農業の知識や技能は一朝一夕で身に付くものではないですから。」(長沼社長)
「全国と同様、群馬県でも離農者はいます。しかし逆に言えば、やる気次第でどんどん農業を拡大できる時代です。周囲の人をうまく巻き込みながら、頑張っていってほしいです。」(長沼会長)
(取材日:平成28年4月)
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