
「このたびのローソン銀行さんとの共同ATM設置は、お客さまの利便性を維持しながら、維持コストや管理負荷の削減に取り組む経営戦略の一環であり、JAバンクとして全国初の取り組みとなりました」。同日、セレサモス麻生店で行われたテープカットセレモニーで、JAセレサ川崎の原修一代表理事組合長は共同ATM設置の意義を語った。
2019年5月、株式会社ローソン銀行と農林中央金庫はJAバンクへの共同ATM設置に関する合意を発表。JAなどが希望するATMについて、ローソン銀行ATMへの代替設置(リプレース)を進めるものだ。今回のJAセレサ川崎によるリプレースは、全国のJAにおいて第1号の事例となる。

生産者と利用者を結ぶ“都市近郊型JA”の拠点づくり
今回、共同ATMが設置されたセレサモス麻生店は、JAセレサ川崎の大型農産物直売所として2008年4月にオープンした。同JAがある川崎市は人口150万人を超える大都市で、商業施設や工業地帯のイメージが強いが、市内には東京ドーム約66個分の農地があり、都市部で消費地に近いというロケーションを生かして、「かわさきそだち」の野菜や果物、花など消費者のニーズを捉えた「少量多品目栽培」による都市型農業を展開している。
セレサモス麻生店は来店者数が1日平均1,000人に上り、2017年3月には累計来店者数300万人を突破。「鶴川街道に面した立地もあり、川崎市外からの利用者が過半数を占めています」と語るJAセレサ川崎の市川重男常務理事は、共同ATM設置についてJA顧客の利便性の観点から、さまざまな議論があったことも明かす。「共同ATM設置は維持コストや人的負担を軽減し、より直売所の企画運営等に注力できるというメリットがある。その一方で、共同ATMでは通帳記帳や振り込みができないといったデメリットもあり、高齢者が多いJAの利用者に配慮した意見も出されました。しかし、JAセレサ川崎は、直売所を基軸として都市住民と生産者を結び付ける“都市近郊型JA”としての機能発揮を重視しています。そのなかで、市外からの利用者も多いセレサモス麻生店に共同ATMを設置することの意義は大きいと考えました」。


“JAならでは”の機能発揮に向けて選択肢を広げる
日本では全国に約20万台の銀行ATMが存在するなか、キャッシュレス化の流れとともに各金融機関はチャネルの見直し、すなわち利用者との接点の在り方の見直しを進めつつある。「JAバンク中期戦略(2019~2021年度)」においても、柱の一つとして「リソース(店舗・人材等)の再配置による事業運営の“質”の転換」を掲げ、チャネルの再構築による利便性と満足度の向上、および低コストな事業運営をテーマにしている。
現在、JAバンクのATM保有台数は全国で約1万2,000台、うち約4,000台が店舗外ATMだ。地域に不可欠な社会インフラとして利用されるATMも多いなかで、維持コストに加えてATM障害発生時のメンテナンスや現金管理など、JA職員への負荷も大きな課題となっている。
「各JAの事業環境はさまざまであり、全国均一にJAバンクのATMがリプレースされるわけではありません。共同ATMでは通帳記帳ができないなど、これまでのATMと機能も異なります。一方で、一部のATMの管理・メンテナンスをローソン銀行に任せ、人的負担を軽減することで農業融資や営農経済などに一層力を入れるという判断もあります。共同ATMへのリプレースは、各JAの選択肢を広げるためのものです」と農林中央金庫・JAバンク業務革新部は背景を説明する。
ローソン銀行は2001年から全国にわたるATMの運営実績があり、JAバンクを含む118の金融機関と提携している。さらに2018年9月に銀行として開業してからは、地域金融機関と連携した地域活性化への取り組みを事業の柱に打ち出し、今回のJAバンクとの連携にもつながった。


情報提供、コミュニケーションツールとして地域密着型ATMの可能性を探る
セレサモス麻生店のローソン銀行ATMでは、同店でのみ利用可能な「ソフトクリーム100円引き券」(期間限定クーポン)を発行するなど、従来のJAバンクATMにはなかった新たな試みも行われた。
昨年、世界全体ではATMの台数が減少したともいわれているが、国内でのATMニーズは依然として高い。ローソン銀行の山下雅史代表取締役社長は、これからのATMについて社会インフラとしての多様な可能性を見据えている。
「全国の金融機関等とローソン銀行ATMとの提携について相談するなか、ある金融機関からはクーポンを活用した店舗への誘致、また地方公共団体からは“〇月〇日は選挙です”などといった告知の相談があるなど、これからのATMは地域でのさまざまな情報提供やコミュニケーションツールにもなりうる」と話す山下社長。今後のJAバンクとの提携について、「ATMを活用して、各JAの特性に合わせた地域密着型のさまざまなサービス展開をサポートしていきたい」と意気込む。
同様にJAセレサ川崎もローソン銀行ATMとの提携によるサービスの可能性に期待を寄せる。「ATMを通じたJA貯金・ローン・共済などの情報提供をはじめ、当JA管内にはセレサモスのような大型直売所以外に約500カ所の小規模な農産物直売所があります。それらに関する情報発信といったさまざまなアイデアを持ち寄っているところです」と市川常務理事は語る。業態の枠組みを超えた連携による、JAバンクの新たな挑戦は続く。


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当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。
この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。

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