特集:「農×林×水」による宮城県産品の高付加価値化

農×林×水 ”オールみやぎ”による新商品「みやぎサーモンSMOKE」 2019年9月17日、宮城県産の飼料米で養殖し、同じく県産の栗チップで燻した「みやぎサーモンSMOKE」のお披露目が行われた。農×林×水の”オールみやぎ”の体制で、県産品の高付加価値化に挑む。※「みやぎサーモンSMOKE」発表・試食会

 「『みやぎサーモン』をスモークしたことで、料理の幅が広がりました。海外のお客さまにも楽しんでいただきたい」。発表・試食会で料理を担当した食材王国みやぎ「伝えびと」の瀬戸正彦さん(トラットリア クチーナ オランジェリー料理長)は、「みやぎサーモンSMOKE」の魅力をこう語る。「みやぎサーモン」は、養殖銀ざけの最大の特徴「新鮮で刺し身で食べられるサケ」にこだわった高級ブランド魚。この日、みやぎ銀ざけ振興協議会の主催による発表・試食会で、宮城県産飼料米で養殖し、宮城県産栗チップで燻した新商品「みやぎサーモンSMOKE」のお披露目が行われた。

  • 食材王国みやぎ「伝え人」トラットリア クチーナオランジェリー 瀬戸 正彦 料理長
  • 「みやぎサーモンSMOKE」発表・試食会

養殖生産量日本一の宮城県の銀ざけ2020年に向けて新商品を開発

 宮城県は養殖銀ざけ発祥の地であると同時に、養殖銀ざけ生産量全国1位(シェア約9割※1)を誇る。2011年の東日本大震災後、復興を目指すなかで、銀ざけ養殖技術の向上に取り組んできた。2017年には「みやぎサーモン」として、宮城県産の農林水産物では初のGIマーク※2を取得した。
 その後、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて日本に注目が集まるなか、農林水連携で新商品を開発するプロジェクトがスタート。関係者との議論を経て、飼料米で育てた「みやぎサーモン」を、県産の栗チップで燻製する商品「みやぎサーモンSMOKE」のアイデアが浮上した。
 JA全農みやぎの飼料米を用いて、みやぎ銀ざけ振興協議会と宮城県漁業協同組合(JFみやぎ)がサーモンを養殖し、宮城県森林組合連合会の栗チップで燻す。さらに、全体のコーディネーター役を農林中央金庫が担い、宮城県が事業を助成するとともに、県内企業のワイケイ水産株式会社が商品化。生産から加工までのバリューチェーンが県内で完結する “オールみやぎ”のプロジェクトとなった。

※1 「農林水産統計 平成30年漁業・養殖業生産統計」
※2 GIマーク:農林水産省による審査で要件を満たす地域ブランド品の名称を地理的表示(Geographical Indication)として登録し、「GIマーク」を使うことが認められる。

水に沈みにくい飼料を開発 臭みが少なく、安全・高付加価値な銀ざけを養殖

 全国的にも珍しい農・林・水3領域での連携プロジェクト。技術的な苦労も乗り越えてきた。2017年から、JFみやぎとJA全農みやぎが先駆けて農・水連携をスタートしたが、飼料米は家畜用が一般的で、水産用飼料に使う事例は全国でもまれだった。従来は飼料の約30%に使用していた外国産小麦粉を宮城県産飼料米に変更。「難しかったのは、飼料米を配合した水産用固形飼料(EP飼料)の造粒ぞうりゅう技術の開発です。飼料が水中に沈まないように、米の配合量を見定めるのに一番苦労しました」とみやぎ銀ざけ振興協議会の山下貴司さんは振り返る。1年間の試行錯誤を経て、2018年に宮城県産飼料米を配合した飼料による「みやぎサーモン」の養殖に成功。消費者からは「臭みが少なくなったばかりでなく、甘みが出て、さらにおいしくなった」と好評を博した。燻製では一般的な桜チップでなく、宮城県森林組合連合会の協力のもと、県産の栗チップを使用。「みやぎサーモンSMOKE」に独特な風味を付けた。宮城県産の飼料米を使用することで、輸入原料への依存度が減り、為替の影響と経費を削減できるメリットがある。知名度の向上、食の安全・安心の確保に加えて、価格の安定化につながった。

みやぎ銀ざけ振興協議会 山下 貴司さん
「みやぎサーモンSMOKE」のロゴ
“SMOKE”の和訳「煙」を、宮城県発の世界語として発信しようと、その漢字をピクトグラム風にアレンジ。農・林・水それぞれの産業を、淡い色彩で表現している。

スモーク加工した「みやぎサーモンSMOKE」で海外ファンの拡大を目指す

 「みやぎサーモンSMOKE」は、国内に加えて海外の消費者も狙った戦略商品だ。すでに「みやぎサーモン」は、農林中央金庫の支援を得てアメリカ、シンガポールに輸出。燻製した「みやぎサーモンSMOKE」によって、刺し身など魚の生食が普及していない国にも輸出の可能性が広がる。現在、EU圏内の市場開拓に取り組んでいる。
 「通常の水産業者は、海外の販路の開拓が難しい。輸出時に、農林中央金庫等から海外の取引先を紹介してもらい、非常に助かっています」と話す山下さんは、世界的にサーモンブームの追い風が吹くなかでも、気を引き締める。「国内他県でもご当地サーモンが登場し、宮城県も“養殖銀ざけ生産量日本一”に甘んじていられません。生だけでなく、スモーク加工でも食べられることを武器に、国産高品質の『みやぎサーモン』を、インバウンドの海外顧客や海外市場にPRしていきたい」。“オールみやぎ”の挑戦は始まったばかりだ。

(左から)「みやぎサーモンSMOKE」、「みやぎサーモンSMOKE」と県産の食材を組み合わせた料理、3~7月に旬を迎える銀ざけ、県産米を使用したペレット飼料

農×林×水の“オールみやぎ”による
バリューチェーンを構築

三陸の海で育てた「みやぎサーモン」の魅力を発信

みやぎ銀ざけ振興協議会 松本 洋一 会長(宮城県漁業協同組合代表理事理事長)

 三陸の豊かな海で育てた銀ざけは、脂の乗りも格別です。農・林・水の画期的な連携によって完成した「みやぎサーモンSMOKE」は、まさに“オールみやぎ”の賜物。プロジェクトを通じて「みやぎサーモン」の魅力を発信し、ブランド力の向上に取り組んでいきます。

飼料米の活用で宮城県の水田風景を守る

全国農業協同組合連合会宮城県本部 大友 良彦 本部長

 宮城県は全国有数の米の産地です。最近は、飼料米の生産が重要な役割を果たしており、今回の農林水連携プロジェクトでも約200トンが使われています。こうした飼料米の活用を通じ、宮城県の伝統的な水田風景を守り続けていきます。

宮城県の豊かな森と清らかな水を守るために

宮城県森林組合連合会 佐藤 正友 代表理事会長

 森林には防災や環境保全、そして田畑や海に注がれる水を生む水源涵養機能があります。森林を守るには「植樹、木育、伐採、使用」の循環が必要です。今回のプロジェクトを通じて、全ての命の源である豊かな森を未来に引き継いでいきます。

森林、大地、海の恵みと人々の思いをつなぐ

農林中央金庫 河本 紳 常務執行役員

 農林中央金庫の役割は、「みやぎサーモンSMOKE」の付加価値が、人々の手に届くように、支え、つなぎ、広げること。プロジェクトのコーディネートを行うとともに、国内での販売先の紹介や海外展開のサポート等にも全力で取り組みます。

みやぎ銀ざけ振興協議会

  • ・県内の銀ざけ養殖に関わる生産団体、商社、飼料メーカーなどによって2013年3月に設立。その後、地元産地市場や関係市町もメンバーに加わった。
  • ・「安心・安全・美味」な宮城県産の銀ざけを多くの消費者に届け、地元の重要産業である銀ざけ養殖業の再生と発展を目指す。高付加価値化等の取り組みを進めている。

会長: 松本洋一(宮城県漁業協同組合 代表理事理事長)
住所:〒986-0032 宮城県石巻市開成1-27
Tel:0225-21-5732(宮城県漁業協同組合内)
URL:http://www.miyagi-ginzake.jp

農林中央金庫とは

 当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。
 この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。

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