
人口減少・高齢化や低金利、ITによるイノベーションの進展など、JAグループとJAバンクを取り巻く環境は大きく変化している。事業基盤が縮小するなか、全国のJAが今後も持続的にサービスを提供するためには、利用者の目線に立った事業変革が不可欠な状況だ。こうした状況を踏まえて、「株式会社農林中金アカデミー」では、研修を通じた“変革リーダー”の育成に取り組んできた。
同社は、2012年に開講した「経営者コース」を端緒に、JAの経営層や管理職を対象にした変革リーダー育成の講座を開設。これまでの受講者は、延べ4,000人以上に及ぶ。各講座で重点を置いているのは、変革を実現する「戦略策定力」「内部統制力」「人員動員力」と、学びを実際の行動に変える「実践力」の養成だ。
JAを変革する4つの力
計9日間の経営者コース。学ぶ力の一つ目は「戦略策定力」だ。大局観を持ったJAの将来のビジョン(あるべき姿)を描き、環境変化や地域特性を踏まえ、JAの強みを生かした経営戦略や実効性のあるアクションプランを策定する。
二つ目の「内部統制力」では、金融行政の変化等を踏まえつつ、戦略実践の前提となる強固な内部管理態勢の構築について学ぶ。
三つ目の「人員動員力」は、経営戦略を実行する力だ。リーダーとして組織を束ね、役職員を動かすために、マネジメントとコミュニケーションのスキルを養う。
こうした力をもとに、研修の学びを行動に変えるのが「実践力」。研修期間に立案した経営戦略やアクションプランを実際に試し、課題解決に結び付ける。
受講から一定期間後には、フォローアップの研修も設定されている。座学のみならず実践を重視することで、ビジョン実現に向けて先頭に立って行動し、変革を推し進める人材の育成を目指す。
JA経営者の約6割が受講
あらゆる階層から意識変革を促進
農林中金アカデミーは、もともとJAの役職員の専門知識やスキル習得支援のため、通信研修や検定試験、都道府県単位での研修職員の派遣を行っていた。
その後、JAグループの環境変化を踏まえ、変革を進めるリーダーの育成も開始。まず、2012年にJAの常務および専務を対象とした「経営者コース」を開設。しかし、受講者から届いたのは、「組織全体を変えるためには、組合長や部下の理解も必要」といった声だった。
そこで、2014年に「部長コース」、2016年に「組合長・理事長セミナー」を開設。先頭に立って変革を推進する経営者を、経営トップや部下が一緒になって実践していく環境を整備した。
また、2016年には、支店長や中堅職員を対象にした「ブロック・シンポジウム」を新設し、担当業務が異なる参加者の討議(“ワイガヤ”)を地方ブロックごとに実施。さらに2019年8月には、30代後半から40代前半を中心とした、次の世代を担う変革リーダーの育成に向けた「次期リーダーコース」を立ち上げる予定だ。

JAバンク中央アカデミー
経営者コース受講者の声仲間との“ワイガヤ”で得た気付きをヒントに組合員・地域住民に新たな機能を提供
少子高齢化・担い手不足問題の解決を目指して
私が「経営者コース」計9日間に参加したのは、JA北魚沼の常務だった2013年でした。その後、2015年には1泊2日のフォローアップ研修会にも参加しました。当JAは新潟県内でも有数の豪雪地帯にあり、中山間地域の厳しい自然条件のなか、「魚沼産コシヒカリ」などの特産品を全国に出荷しています。研修に参加したのは、少子高齢化や過疎化を背景とした担い手不足など、JA北魚沼として抱えていた課題解決の一助になればとの思いがあったからです。
自分自身の役割を問われる
「経営者コース」に参加したとき、最初に「課題を克服するため、あなた自身が何をすべきか?」という厳しい問いが投げ掛けられたことを覚えています。その答えを導き出せたのは、参加者である他JAの仲間と交わした“ワイガヤ”からでした。繰り返し議論することで、JAとしての役割とビジョン、あるべきJAの姿と現状とのギャップを再認識し、自分自身の中から気付きが生まれてきたのです。それは「組合員・地域住民の皆さんに、これまで以上にJAの事業運営に参画してもらい、答えを見つけること」でした。
研修終了後、この気付きをベースに、管内のユリ農家の皆さんに“ワイガヤ”を提案したり、ファーマーズマーケットを拠点にしたリタイア世代への新規就農支援などに取り組みました。取り組みにあたっては、研修で学んだとおり、中堅・若手職員から積極的にアイデアを出してもらい、ボトムアップの視点を大切にしました。
クイック・ヒットの積み重ねが、次につながる
新潟県内では、現在、農地中間管理機構(農地バンク)を利用した農地整備事業の一環として、園芸作物の栽培を拡大する取り組みが行われています。JA北魚沼では、地域の多様な担い手――小規模な家族経営者、兼業農家、大規模経営農家――をバランス良く大切にし、地域を守る役割の実現を目指しています。今でも思い出すのは、「クイック・ヒットの積み重ねが自信となり、次につながる」という講師の言葉です。これからも、理想と現実のギャップを埋めるため、日々の小さな変化を継続しながら、より大きな変革を目指していきます。

JAバンク中央アカデミー 経営者・部長コース講師
プロモントリー・フィナンシャル・グループ
信森 毅博 マネージング・ディレクター内部統制の本質を理解し、
お客さまに真に役立つサービスを
お客さまのために存在する内部統制
2014年から「経営者コース」と「部長コース」で、内部統制をテーマに講師を務めています。講師をしていて感じるのは、皆さん方の意識の変化です。従来は、農政や行政の動きに目を向けがちでしたが、最近は、JAごとに異なる経営環境に目を向ける意識が高まっています。JAは、もともと、地域のお客さま(組合員・利用者)に向けたサービスを提供しています。このため、常にお客さまの方を向き、農家や地域によって異なるさまざまな課題を解決することが重要だと、講義のなかで話してきましたが、うなずいて下さる方が増えています。
お客さまと向き合うための手段が内部統制です。「内部統制」と聞くと身構える人が多いのは事実ですが、JAの強みは利用者との距離が圧倒的に近く、多様なニーズをしっかりと把握している点です。内部統制の真の目的は、多様なニーズや周辺情報をJA内で共有することで、適切にリスクを取ることにあります。その意味で、内部統制は、JAの強みをより一層発揮し、顧客の要望に応えるための手段だとお伝えしています。
表面的にルールを捉えるのでなく、常に本質を考える
当研修をきっかけに、個別のJAにおける内部統制の研修について、お声掛けいただく機会が生まれました。その際には、書類作成などの具体的な局面を例に、ルールの意義を考えていただくよう、お話ししています。例えば、JAでは高齢の利用者から代筆をお願いされる場面が少なくありません。「お客さまのご依頼があるときでも、なぜ、一般的には代筆を行ってはいけないのか?」「代筆を行うことでどのようなリスクが生じるのか?」など、ルールを表面的に捉えるのではなく、その本質を深く考えてもらいます。本質を理解すれば、逆に「どのような場合は例外的に代筆してもよいのか。その場合、何に気を付ければよいのか」が分かり、目の前の利用者に本当の意味で寄り添ったサービスが提供できるようになることを伝えています。そのことができるのがJAの良さだと感じています。
“答え”は常に現場にある
JA組織の変革のためには、経営者も重要ですが、やはりボトムアップで取り組む必要があります。なぜなら、金融業を含むサービス業では、現場のニーズに対応した仕組みがなければ成功しないからです。答えは、常に顧客と接する現場にあります。
時代のニーズが、金融と非金融の垣根を越えたビジネスを求めつつあるなか、JAのポテンシャルを発揮できる可能性は高まっています。例えば、農業貸出でいえば、定量分析の手法では銀行が先行しているかもしれませんが、農業者に関する定性分析では、JAの方が実態を把握していることは多いでしょう。自らの長所・短所をしっかり認識して、お客さまのニーズに応えていくことが重要です。
そのきっかけの一つとして、内部統制の意義を改めて考える研修の機会をぜひ活用していただきたい。だからこそ、一方的に講義するのではなく、具体的な事例を交えつつ平易な言葉で伝え、経営戦略とともに、実際に生かせる研修を常に心掛けています。
農林中央金庫とは
当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。
この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。

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