2019年5月27日、東京・大手町でイノベーションラボ「AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)」のオープニングセレモニーが開催された。自由な発想を誘発するため壁一面のホワイトボードやキッチン等を備えた会場に、ラボに参加するJAグループ全国連の代表が集結。挨拶に立った全国農業協同組合中央会の中家徹会長は、「スタートアップをはじめとする企業や行政・大学関係者とイノベーションを起こし、新たなソリューションを創り出したい」と表明した。
「アグベンチャーラボ」とは、Agriculture(農業)×Adventure(冒険)×Aggressive(積極的)からなる造語。運営は、JAグループから集まった約20名のスタッフが行う。JAグループのさまざまな事業と、技術やアイデアを持ったスタートアップ企業等を結び付け、社会課題の解決を目指す。また、イノベーションの実現を通して、JAグループ全体の意識変革を促進するという狙いもある。
スタートアップ企業等のために
ハード・ソフト両面の環境を整備
ラボで取り組むテーマは、AgTech、FinTech、FoodTech、LifeTech、地方創生。農業や金融、食、暮らしの領域にイノベーションを生み出す。
モデルとなったのは、世界有数の金融機関であるクレディ・アグリコル(フランス)。2014年にイノベーションラボ「Le Village(ル・ヴィラージュ)」を開設し、金融・農業・健康・エネルギー等の領域で、スタートアップ企業と連携してきた。そのノウハウは、今回のアグベンチャーラボにも活かされている。
アグベンチャーラボの特徴は、オープンイノベーションを実現するために、ハードとソフトの環境を整えたこと。ハード面では、大手町という立地に拠点を設け、スタートアップ企業等に向けて、自然を基調とした内装のコワーキングスペースを用意。リラックスして自由な発想を生み出すため、和室のスペースも用意されている。
ソフト面では、インキュベーション、ソリューションマッチング、実証実験といった3つのステージで、スタートアップ企業等と連携。研修やワークショップ、実証実験の支援等の取り組みを進める。
ビジネスプランの実現を目指す
アクセラレータープログラムがスタート
ソフト面における取り組みの柱となるのが「JAアクセラレーター」プログラムだ。「食と農とくらしのイノベーション」をキーワードに、スタートアップ企業等からビジネスプランを募り、JAグループの強みを活用した新たなビジネスモデルの創出を目指す。
2018年12月の募集開始から192件の応募があり、2019年5月29日には最終審査のビジネスプランコンテストを開催。16社が最終プレゼンテーションを行った。
審査の結果、7社が優秀賞を受賞し、プログラムへの参加が決定。この他、1名の高校生によるビジネスプランが特別賞を受賞(右ページ下参照)。アグベンチャーラボを自由に利用できる権利を得た。
審査に参加した農林中央金庫の木村吉男執行役員は「審査では激論が交わされた。プログラムに参加するスタートアップとともに、イノベーションを加速していきたい」と講評。
受賞企業は、プログラム期間中にJAグループ職員や専門家の支援を受けてビジネスプランをブラッシュアップし、2019年10月に成果発表会を行う予定だ。
オープニングセレモニーに参加した
スタートアップからのコメントITを活用し、アフリカと日本の課題
解決に向けて、ともに取り組みたい
アグベンチャーラボのオープニングセレモニーには、スタートアップ企業も参加。「日本植物燃料」の合田真代表取締役にラボへの期待を聞いた。
2000年に設立した当社は、2006年にアフリカ南東部のモザンビークでバイオ燃料の原料となる作物の栽培を開始。同国では、商店を経営し住民にサービスを提供するとともに、独自の電子マネーカードを発行しています。電子マネーカードは、預金口座を持たない住民に急速に普及し、現在の発行枚数は約3万枚。電子マネーカードを通じて住民の経済状況を正確に把握し、マイクロファイナンスも実施しています。
今後、農業が主産業であるモザンビークにおいて、農業協同組合(農協)のサービスをスマートフォンのアプリで実現する「電子農協プラットフォーム」事業に参画します。モザンビークにも農協は存在しますが、協同購入や協同販売などの仕組みが確立しておらず、加盟者も限られているのが現状です。
JAグループのノウハウは、モザンビークをはじめとするアフリカの農業と社会の発展に大きく寄与するものです。アグベンチャーラボの設立を機にJAグループとの連携を深め、ITを基盤としたアフリカでの農協プラットフォームの構築や、日本における農業及び社会の課題解決について、共同での取り組みの可能性を探っていきたいと思います。
アグベンチャーラボ代表理事
インタビュースタートアップ企業の成長と社会課題解決をJAグループ全体で実現したい
このラボは、スタートアップ企業に自らの成長のために活用してもらいながら、社会課題の解決を目指すというところが最大の特徴です。
イノベーションは業界の境目に起こるといわれますが、もともとJAグループ内にはさまざまな事業があります。だからこそ、グループ全体で一丸となって取り組みながら、外部の方々と相乗効果を生み出すことに大きな意義があるのです。
ラボの主役はスタートアップ企業です。一緒に仕事をしていて感じるのはスピード感です。例えば、出資する場合、通常のプロセスを踏むとおよそ2~3カ月はかかります。でも、それだと遅い。JAグループのスピード感は、変えていく必要があります。
なぜなら、変化に強い組織でないと、もはや生き残れないからです。ダーウィンの進化論と同じで、変化に対応できる種だけが最終的に残る。イノベーションに触れることでJAグループに化学反応を起こし、役職員のマインドチェンジを促しながら、「挑戦しよう」「失敗してもいい」というカルチャーに変えていきたい。
また、JAグループの職員が外部の方を尊重し、フラットな関係を構築することで、イノベーションが生まれやすい環境をつくり上げたいと考えています。
先日、イスラエルに出張した部下の話を聞きました。衝撃だったのは、ほぼ100%という食料自給率です。あの砂漠の国で、空気中から水をつくるテクノロジーや、少量の水で栽培できる野菜を開発することで実現していました。日本の農林水産業を高度化させ、社会課題を解決していく上では、新たなイノベーションの実現こそが、伴になると実感しました。
今の日本には、農業関係など、面白いスタートアップがたくさんあります。さらに起業する人たちが増えるような活動ーー例えば、大学の農学部と連携するイベントにも取り組んでいきます。
スタートアップには、社会に貢献したいという志を持った人が多いと感じています。我々も共感する部分が多く、これからがとても楽しみです。
農林中央金庫とは
当金庫は、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、金融の円滑化を通じて農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的としています。
この目的を果たすため、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森組)等からの出資およびJAバンク、JFマリンバンクの安定的な資金調達基盤を背景に、会員、農林水産業者、農林水産業に関連する企業等への貸出を行うとともに、国内外で多様な投融資を行い、資金の効率運用を図り、会員への安定的な収益還元に努めています。
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