「訳の分からない会社を作って」最初の給料は10か月後に
「『訳の分からない会社を作って』。周囲は最初、そんな反応でした」
2005年の会社設立当時の様子を、田切農産の紫芝勉社長(57)は振り返ります。
少子高齢化で農作業の担い手不足に直面した飯島町。営農組合が仲介し、農地を貸し借りする従来の仕組みは限界となっていました。営農センターが見出した解決策は、農作業を受託する法人を設立すること。4つの地区営農組合で農作業を担う機械利用部を独立させ、会社を設立したのです。
田切地区に新しく生まれる「株式会社田切農産」の責任者として選ばれたのが、作業受託の実績もあった紫芝さんでした。
紫芝社長は、地区内の農家に対して2回のアンケートを実施し、作業受託の見通しを調査。さらに、田切地区内の主だった農家に働きかけ、十数人の出資を得て、仲間2人とともに農作業を受託する資本金300万円の会社を設立します。
しかし、新会社設立に込められた営農センターの狙いも、当初は十分に理解されていませんでした。紫芝社長のもとに最初に集まった農地は20ha。収支が成り立たず、資本金300万円を半年弱で使い切ることに。紫芝社長が自分の給料を最初に受け取ったのは、設立10か月後の12月だったといいます。
「最初はそれほど意識していなかった」と言う紫芝社長が、地域の農家や農業を守ろうという思いを強くしたのは、3年を過ぎた頃でした。
「大丈夫かという外部の声があった中で、営農組合の役員や地域の人たちが防波堤になって守ってくれていた。そのことを、3年経って教えてくれた人がいたんです」
新しいことにチャレンジする紫芝社長をサポートすることで、地域農業の未来を育てたい。そんな周囲の人々の気持ちを知り、次世代に向け田切地区の農業に貢献したいとの思いが、紫芝社長の中で強く育ち始めたといいます。
地域の農業関係者98%が出資
草刈から収穫まで、地区内のあらゆる農作業を受託
現在では、田切地区の営農組合の組合員全員が株主に。5000円以上の出資を募った結果、地域の農業関係者の98%が出資し、株主総数は258名になりました。
設立14年目の現在、受託する農地面積は20haから100haまで増えました。田切地区の水田の面積は約180ha。その半分以上を田切農産が担っていることになります。
「耕起から収穫まで全ての作業を行います。手が足りない農家の田植えや収穫作業の手伝い、畦畔や土手草の刈り取りなども受託。高齢で農作業ができない農家、週末に夫婦二人で作業をしている兼業農家、農業機械を使う作業は任せたい農家など、細かいニーズに合わせて作業を行っています」と紫芝社長。
一方、作業を受託するだけでなく、田切農産からも、地域の住民に作業を発注しています。
「兼業農家を含めて、地域の方に『どんな作業ならできるか』と聞いています。水管理や畦畔の草刈りなどを、こちらから作業委託して、できる仕事を請け負ってもらっています。小さなことでも仕事を作る。それによって、地域で農業に携わる人が増えることが大切だと思っています」
その根底にあるのは、一部の専業農家だけではなく、兼業農家も含めて、全ての人々が農業にかかわることが田切地区を守るために不可欠との考えです。
「効率的な作業だけを請け負い、人をもっと減らせば、田切農産をもっと儲かる会社にすることはできます。でも、それは目指していません」と紫芝社長。
「小さな利益でも地域の皆で分け合い、地域に参加する人を増やすことで、農業と地域を維持していく道があると考えています。大規模農家を中心にした攻めの農業も必要ですが、地域の中で限られた人だけが利益を得る結果になっては、私たちにとっては意味がありません。田切農産は作った時から地域のためにある会社だと思っています」
現在、田切農産の従業員は19歳から50代までの11人。農業に興味を持つ10代、20代の若者や、Iターン、Uターンなどで地元での就農を目指す人たちを多く採用しています。従業員の独立を積極的に支援したいと語る紫芝社長。これからの地域を守る農業の担い手の育成にも力を注いでいく考えです。
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