
農業者の目線で「営農センター」を設立
「『国や県の手先になるためじゃないぞ』。そう言われました」
約30年前を振り返るのは飯島町地域営農マネージャーの齋藤久夫さん(70)。当時、齋藤さんは飯島町の係長。自ら発案した「農業振興センター」の設立に向けてJAに話を持ちかけたところ、役場で朝から議論になったのです。
当時、国は農業構造改善事業を推進していました。齋藤さんは役場の担当者として、事業に対応して飯島町に新しい農業の仕組みを検討する「農業振興センター」の設立を企画。ところが、JAの所長から「君たちは何のためにやるんだ?」と指摘を受けたのです。
所長ととことん話し合った齋藤さん。その過程で、農家の視点に徹底的にこだわる大切さに気付いたといいます。
「一方的に行政の立場を押し付けるのではなく、農業者の目線に立たなければならない。私自身もそう思いました」
話し合いを重ねた結果、新しいセンターには、町やJAとともに町内の全ての農業者の代表も参加する形に。組織の名称は農家を主語に“農業を営む”という意味をダイレクトに表すため「営農センター」に変更。農業者・JA・町等の担当者が構成員となり、1986年9月、一体となって飯島町の農業の未来を決める仕組みがスタートしたのです。
営農組合設立のための懇談会で、数え切れない質問と意見に直面
当時の飯島町には、まだ元気な農家が多かったものの、このまま高齢化が進めば、将来的に町内の農業が成り立たなくなることは明白でした。この状況を変えるためには、地域農業に「ビジョン」が必要、それを作るのが営農センターの役割でした。
改革の鍵と考えられたのは、農家の主体的な参加です。その仕組みとして構想されたのは、飯島町の集落ごとに設立される36の営農組合。つまり、営農センターによるビジョンを実行する組織として、集落ごとの営農組合を設けることになったのです。
入り組んだ農地を、営農組合が集約し、農業機械を共同化して生産コストを下げる。そして余った労働力で収益性の高いキノコと果物の里作りに取り組む。このような計画が立てられ、営農組合にはその実行が期待されました。
しかし、営農センターの職員が各集落に赴いて構想を説明すると、強硬な反対に直面します。
「ものすごい数の質問や意見が寄せられました」と齋藤さんは振り返ります。「必ず参加しなければならないのか」など、町内全体で取り組むことへの疑問が職員にぶつけられたのです。
一つ一つの質問や意見を営農センターの職員が書き取り、職員で集まって回答を考えては、また各地区に出かけていくことを繰り返しました。「100の質問に対して、100の回答を準備して、納得するまで話し合いました」と齋藤さんは振り返ります。
「まだまだ元気な農家が多かった時代です。『自分だけでやっていく』という声もありました。しかし会合を重ねていくと、『子供がいるうちはいいけれど、自分たちだけになって、農業が出来なくなったらどうするのか』『将来を考えたら、営農センターの人たちの言うことの方が、正しいのではないか』と言ってくれる人が、だんだんと出てきたのです」
次第に賛同する意見が増えた結果、開始から26か月で36の全集落に営農組合が設立されました。将来にわたって飯島町の農業を維持するための仕組みが誕生した瞬間でした。「田切地区で住民主体の道の駅構想が出てきたのも、農業を中心に地域をどうしていくのか、昔からみんなで話し合ってきた土壌があったから」と齋藤さんは言います。

専業農家も兼業農家も農業を持続できる仕組み作りを
飯島町の営農センターが目指しているのは「地域複合営農」。専業農家も兼業農家も、農業を持続できる仕組み作りです。その目的を、齋藤さんは次のように語ります。
「行政に求められるのは、一部の専業農家だけではなく、兼業農家も含めて、地域の農業全体が持続可能な仕組み作りを行うことです。地域の農業が成り立っているのは、お年寄りやサラリーマンの兼業農家など地域にいるいろいろな人が、水路の管理や草刈などに貢献しているからです」
全ての人が農業を持続できる仕組み作り。それこそが、地域全体の農業を守り、維持していくために不可欠な取り組みなのです。
地域複合営農を実践する仕組みの一つが、農地のマッチングです。飯島町では、1990年から農地の貸し借りの希望を営農組合単位で集約。使われていない農地を耕作者に貸与することで、耕作放棄地の発生防止に取り組んできました。さらに、情報システムを使って地代の精算も支援しています。農作業全てを行うことが難しい高齢者でも、農地を貸し出し、出来る範囲で農業に関わり続けられる仕組みを構築したのです。
また、稲作だけに頼らない農業の実現のため、地区ごとに大型のキノコ栽培の法人を設立するなど、新しい特産品の育成にも取り組んできました。
さらに、より効率的に農地や機械の共用化を進めるため、集落単位の36から旧村単位の4つの地区(田切・飯島・本郷・七久保)に営農組合を統合しました。
しかし、年々農業従事者が高齢化する中で、飯島町では担い手不足の問題が深刻化。2003年頃には、このままの仕組みでは町内の農業を守りきれない、との声が上がってきました。
この課題に、飯島町では担い手法人を立ち上げることで対応しました。
- 取組み
- ニュースレター
- 農林水産業の”現場の声”
- 肉用牛生産(福島県)
- ウッドソリューション・ネットワーク(東京都)
- 気仙沼かなえ漁業(宮城県)
- BEER EXPERIENCE(岩手県)
- 浄法寺漆産業(岩手県)
- みやぎサーモン(宮城県)
- 日本農業経営大学校(東京都)
- 福岡県広域森林組合(福岡県)
- 由比港漁業協同組合(静岡県)
- 本吉町(もとよしちょう)森林組合(宮城県)
- 宮古森林組合(沖縄県)
- JA東京みらい(東京都)
- 気仙沼鹿折(ししおり)加工協同組合(宮城県)
- JF北灘(きたなだ)(徳島県)
- 福島県酪農業協同組合(福島県)
- JAしまね(島根県)
- JAみな穂(富山県)
- JA仙台と井土生産組合(宮城県)
- JAいわて花巻(岩手県)
- JF相馬双葉(福島県)
- JAいしのまき(宮城県)
- JFりょうり(岩手県)
- JAふたば(福島県)
- JA鹿児島いずみ(鹿児島県)
- JA佐波伊勢崎(さわいせさき)(群馬県)
- JA岡山西(岡山県)
- JA秋田おばこ(秋田県)
- JAにしうわ(愛媛県)
- JA伊豆の国(静岡県)
- JF銚子(千葉県)
- JF室津(兵庫県)
- 金山町(かねやままち)森林組合(山形県)
- 太良町(たらちょう)森林組合(佐賀県)
- カルスト森林組合(山口県)
- 下北地方森林組合(青森県)
- 「食」に関する調査
- 地方創生・地域活性化に資する取組み
- 金融円滑化に向けた取組み