農業効率化の実現 エーアンドエス×JA倉敷かさや

エーアンドエス JA倉敷かさや “もうかる農業”へのチャレンジ機械化の推進でコストを削減 農業融資・助成を活用

まっ平らな大地が広がる笠岡湾干拓地の農業用地。この地に8年前に参入した農業法人「エーアンドエス」は現在、70haの農地で業務用の玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃなどの野菜を生産。
より多く、より安くの条件を満たすために決断したのは、積極的な機械化によるコストダウンだった。

エーアンドエス
赤字からV字回復で成長軌道へ
一気に4種類の農機具を導入

集中豪雨で収穫前の玉ねぎが全滅
資金繰りの不安にJAが応えてくれた

「見慣れたはずの農地が一面、湖のように水で覆われた姿に、ぼうぜんと立ちすくみました」

2016 年6月、岡山県南西部を襲った集中豪雨。笠岡市の南に位置する笠岡湾干拓地も大きな被害に見舞われます。この地で玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃなど業務用野菜の生産を手がける農業法人エーアンドエス社長の大平貴之さん(42)は、当時の様子をそう振り返ります。

収穫期を迎えた玉ねぎが水面にプカプカと浮かび、ハウスの中にあった農機具は泥に埋もれていました。自然災害でこれほど農産物に被害が出たのはエーアンドエスにとって初めての経験。収穫を予定していた玉ねぎが出荷できなければ、収入を得られません。月々の各所への支払い、社員の給料—。資金繰りに対する不安が頭をよぎった時、事務所を訪れたのは顔なじみのJA倉敷かさやの融資課の職員でした。そして、その職員が窓口となり、災害などを対象とした「農林漁業セーフティネット資金」の融資手続きを行うことができたのです。融資実現までわずか2週間。資金繰りを確保したエーアンドエスは、無事に難局を乗り切ることができました。

「融資の話を聞いた時は、助かった、というのが正直な思い。日々お付き合いのあるJAさんは、私たちの状況をよく理解してくれているから、突然の出来事にも的確な対応をしてくれる。一丸となって私たちの経営を考えてくれる姿を、本当にありがたく感じました」

大平さんは危機に直面して改めて、JAとのつながりを実感したのです。

エーアンドエス 社長 大平 貴之さん
  • 「アグリシードファンド」はアグリビジネス投資育成株式会社の商品です。
  • 「農林漁業セーフティネット資金」は日本政策金融公庫の融資制度です。
  • 出資はアグリビジネス投資育成株式会社によるものです。

転機は農機具リース助成事業の活用
コストは規模拡大に比例しない

エーアンドエスとJA倉敷かさや。強いつながりができたのは、ここ数年のことです。

2010年にエーアンドエスが笠岡湾干拓地に参入したときには、まだJAの資金の利用は視野に入っていませんでした。そして、干拓地での農業に取り組んではみたものの、思ったような成果を挙げられずにいました。

エーアンドエスは、業務用野菜の生産を選択。干拓地に広がる大規模農地を生かすためでした。業務用野菜はサイズや形など規格面での制約は少ないものの、利益を上げるには低コストの生産が不可欠です。しかし、そのための効率化で壁にぶつかっていたのです。

「限られた自己資金で取り組んでいましたが、赤字続きでなかなか経営を軌道に乗せることができませんでした」

笠岡湾干拓地からの撤退さえも視野に入れていたエーアンドエス。その時、転機が訪れました。同じ干拓地内の農業法人が、JA倉敷かさやで金融を扱う信用部門の担当者を紹介してくれたのです。訪れたJAの職員は、コスト削減に取り組みたいエーアンドエスの要望を聞き取り、農林中央金庫の農機具等リース応援事業「アグリシードリース」の活用を勧めます。つまり、機械化によるコストダウンの提案でした。

提案を受け入れたエーアンドエスは、トラクター、定植機、収穫機、スプリンクラーをリース契約。一気に機械化を推進しました。

助成の導入を決意したのは、創業当時の社長、現在の山本晃会長でした。大平さんは言います。

「山本会長はもともと、補助金や助成などいらないと言っていたのです。しかしJAの提案を機に、考え方を大きく変えました。国も大規模農家を応援している。利用できるものは利用して会社を成長させ、税金をしっかり納められるようになれば良いのではないかと」

これまで16馬力のトラクターで2haの土地を耕すのに3日かかっていたのが、この機械化以降は、2時間で終了。苗植えや収穫の労力も一気に削減できました。その結果、コストダウンに成功します。

 「規模を拡大しても、それに比例してコストが増えるわけではない。そこに農業で利益を上げ、成功する鍵がありました」と、大平さんは振り返ります。

 リースを活用した機械化による効率化で、コストダウンを図り、利益が上がる体質になる。さらに農地を拡大することで、生産量が増え利益が上がる。好循環が生まれ始めたのです。この年を境に経営はV字回復。以降は黒字を達成し続けています。

 エーアンドエスの経営を転換させ、大きな成果を生んだ「アクリシードリース」。出荷先の一つに過ぎなかったJAとの間に、信用事業を通じた強い結びつきが生まれました。

 そして、2016年の集中豪雨で創業以来最大のピンチを迎えた時にも、再びJAがサポートした融資が逆境を救うこととなったのです。

輸入野菜に負けない業務用野菜をつくる
資金面でのサポートが大きな力に

エーアンドエスの事業スタート時の農地は2ha。大規模化による好循環で、現在では70 haまで拡張。3年後には100haまでの規模拡大を視野に入れています。

現在、エーアンドエスが取り組む業務用野菜のライバルは輸入野菜。国内での需要は旺盛で、一定の価格水準さえ維持できれば、互角に勝負できます。

「しかし、農地を拡大し、機械で効率化を図るだけで収益が上がる、というものではありません。確実に多くの収穫を得るには、技術が必要です」

元育種ブリーダーという経歴を持つ大平さん。業務用野菜として求められる大きさや重さを満たす野菜を育てられるよう、土壌分析などの研究と努力を怠りません。

「一度の失敗は仕方がない。でも二度は失敗をしないというのが私の信条です」

露地野菜を栽培する上で、天候の影響は避けられないもの。しかし、大平さんは研究と努力で、困難を乗り越えてきました。最近はさらなるコスト削減を図るため、外部の研究者と協力したGPS農機の研究など、最新技術の導入にも取り組んでいます。

「現在、日本には約30万トンもの玉ねぎが輸入されています。一方で、国内には耕作放棄地が生まれています。もっと農家が元気になって国産の野菜を増やしていくことが重要です。一般の消費者だけでなく、加工食品を扱う企業にも、価格が同じであれば国産を、という声も多い。日本の農業のため、安心のため、これからも積極的にチャレンジしていきたいと考えています」

たまねぎを見るエーアンドエス 社長の大平 貴之さん
有限会社エーアンドエス
住所:岡山県笠岡市拓海町152
電話:0865-63-9433
URL:http://www.sinobinosato.jp/kasaoka/
主な作物:キャベツ、玉ねぎ、かぼちゃ
栽培面積:70ha 
従業員:30人(パート含む)

JA倉敷かさや
生産者たちのために何ができるか
一歩踏み込み、経営を語り合う

想像を超えた災害の状況
緊急融資をサポート

2016年6月の集中豪雨で、大きな被害を受けたエーアンドエス。翌朝、道路まで冠水している危険な状況の中、笠岡湾干拓地に駆けつけたのはJA倉敷かさや信用部融資課の山田道彦課長でした。

「エーアンドエスさんとは、その2年ほど前からお付き合いをさせていただいていました。常に前向きでチャレンジ精神旺盛な当時の山本社長、熱心に自社の農作物の育成に力を注ぐ大平専務。二人の顔が思い浮かび、いてもたってもいられませんでした」。山田課長は当時を思い浮かべます。

足を踏み入れた現場は想像を超える状況でした。出荷間近の玉ねぎも、収穫が難しいのはひと目で分かりました。

災害時に緊急で融資を行う日本政策金融公庫のセーフティネット資金の活用が適切ということになり、すぐに農林中金、日本政策金融公庫の担当者と連携。山田課長は事後処理に忙殺される山本社長と大平専務をサポートし、融資のための手はずを整えました。

「事務所に足を運んだ際、いつもお二人から農業への熱い思いをうかがっていました。JAグループとして最善を尽くしたい。そう思ったのです」

JA倉敷かさや 信用部融資課 課長 山田 道彦さん

“待つ営業から出向く営業”へ
さまざまな出会いが生産者も変える

しかし、JA倉敷かさやも、最初から農業法人に十分に寄り添えていた訳ではありませんでした。

JA倉敷かさやは、2003年に三つのJAが合併して誕生したJAで、倉敷市(一部除く)、笠岡市、矢掛町を管内としています。合併当初を山田課長は振り返ります。

「農業融資に関してはどちらかというと待ちの姿勢でした。生産者に直接出向いて働きかける動きは弱かったように思います」

管内には広大な笠岡湾干拓地があり、大規模農業を営む農業法人も少なくありません。JAを通さずに生産から流通、販売までを自社内で完結する法人もあり、JA倉敷かさやは課題意識を抱えていました。

「JAの役割とは何か、改めて考え始めました。そして、積極的に生産者と経営の話をしようと思ったのです。“待ちの営業”から“出向く営業”へ。その頃から、職員の意識にも大きな変化が出てきました」

こうした取り組みの一つが、エーアンドエスへの「アグリシードリース」の提案でした。そして2016年3月には、規模拡大に向けた財務基盤強化のためJAグループの「アグリシードファンド」を提案し、自己資本の増強を支援。また6月の風水害の際にセーフティネット資金の融資に力を貸すなど、エーアンドエスとの結びつきはさらに強まっています。

最近は、生産者の受け止め方にも変化が生まれていると山田課長は語ります。

「制度資金などの利用の際は、農業法人の方と、経営改善資金計画書を一緒に作成させていただきます。その過程で、経営への意識が高まっていくのを感じます。そして信頼関係を築ければ、次の資金需要の時にも必ず声をかけていただけるのです」

農家や農業法人が資金について最初に相談する “ファーストコールバンク”になりたい。その思いがJA倉敷かさやの職員を突き動かし、変化が芽生え始めています。

エーアンドエス 社長の大平 貴之さん(中央)と、JA倉敷かさや 信用部融資課課長の山田 道彦さん(右)、農林中央金庫職員(左)

JAグループの連携で
さらに強みと信頼を

生産者と、農作物の出荷や購買などさまざまな結びつきを持っている地元のJA。営農アドバイザーや渉外担当などの職員が日々、農業法人の経営者と顔を合わせています。

しかし、農業法人への融資では、さまざまな資金需要が発生します。それを裏から支えてきたのが、現場のJA倉敷かさやと、農林中金岡山支店との連携です。

「生産者との距離が近いことは私たちの強みです。そこで得た情報をもとに、JAグループ全体で生産者にとってのベストなソリューションを提供することが重要と考えています」と、山田課長は語ります。

JA倉敷かさやでは、農林中金岡山支店と定期的に情報交換の会議を実施。刻一刻と状況が変わっていく案件では頻繁に連絡を取り合い、一緒に生産者の元へ赴くこともあります。例えば営農ローンなど、日常の資金需要は地元のJAが、大型の設備投資など金額の大きい案件は農林中金が、それぞれの強みを生かして担当しています。

常に地元と共にあるJAと、さまざまな資金ニーズに応じて連携を取りながらサポートする農林中金。この関係性が生産者の安心感にもつながっています。

「管内には大規模な農業法人から家族経営の農家まであり、資金需要もさまざまです。JAと農林中金の両方がそれぞれの強みを生かし、JAグループの力を発揮して向き合うことが、生産者からの信頼へとつながっていくと信じています」

倉敷かさや農業協同組合
住所:岡山県倉敷市西阿知町1040-5
電話:086-460-4602
URL:http://www.ja-kurakasa.or.jp/
組合員数:23,310人
     (正組合員11,793人 /
     准組合員11,517人)
職員数:401人 ※2017年3月31日現在

出荷の現場から
業務用野菜の需要が高まる中で
求められる生産者の力

倉敷青果荷受組合

生産者に望むのは質と量と安定供給
エーアンドエスの技術力に期待しています

倉敷青果荷受組合は、主に業務用として使われるカット野菜の製造・販売を行っています。近年、食生活の変化によって、中食といわれる総菜や弁当、冷凍・加工食品などの加工・業務用野菜の需要は拡大の一途をたどっています。

我々は中間事業者として、お取引先に常に安定した品質と量の野菜を届けなければなりません。だからこそ、生産者には、確かな品質、確実に収量が確保できる野菜づくりをお願いしています。

エーアンドエスからはJA全農を通じて主にキャベツ、玉ねぎを入荷しています。農作物を科学的に分析するなど、品質の安定と向上にとても研究熱心な生産者だと感じています。企業としての考え方がしっかりとしているのも、急成長につながっているのでしょう。

業務用野菜は、今後もさらに需要拡大が予測され、可能性の広がる分野です。できるだけ生産者の顔が見える地元の農産物をたくさん扱いたいというのが我々の思い。JAにもこうした分野に積極的に関わってもらい、地域農業の活性化に共に取り組めればと期待しています。

倉敷青果荷受組合 理事長 冨本 尚作さん
エーアンドエスから入荷したキャベツ

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