農業経営力の強化 京丸園×JAとぴあ浜松

京丸園 JAとぴあ浜松 JAの総合力を生かし農業法人の規模拡大を後押し 夢・希望に共有するパートナーに

代々、地元で家族農業を営んでいた京丸園。法人化を契機に、水と日差しに恵まれた地の利を生かしたハウス水耕栽培で、付加価値の高い農作物生産と規模拡大に取り組みます。農業法人・京丸園の成長の転機となった出来事は―。

京丸園
思いがけない“未来予想図”成長への道筋がイメージできた

営農アドバイザーの一言がハウス増設のきっかけに

「将来、この農園をどのようにしていきたいですか?」

静岡県浜松市内で、「姫ねぎ」、「姫みつば」、「ミニちんげん」などいわゆる“つまもの”を大規模に栽培する農業法人の京丸園。代表取締役の鈴木厚志さん(54)はある日、栽培技術などの相談をしていたJAとぴあ浜松の営農アドバイザーに問いかけられました。

「従業員の雇用を守るため、経営を安定させ、規模を拡大したい思いはあったのですが、具体的な道筋は描けていませんでした」と、鈴木さんはその当時を振り返ります。

すると1週間後、ハウスの増設を含めた具体的な事業計画案を、営農アドバイザーから手渡されました。それは京丸園の“未来予想図”でした。ハウスを1棟増やした時の生産性や年間の収益など、年ごとの細かな試算、さらには中長期的な設備投資計画案が書き込まれていたのです。

農園を訪問するたびに、経営者の鈴木さんや生産現場のスタッフの話を聞いて京丸園の現状を把握していた営農アドバイザーが、鈴木さんの思いに応えるため、JAとぴあ浜松の販売や融資などの職員と協力して練り上げたものでした。

「これは我が社のための未来の設計図。具体的に落とし込まれた数字を見ることで、確かな将来像が浮かび上がってきました」

次の一歩へと進む覚悟ができた鈴木さんは、ハウス増設のための投資を決意します。さらに、ハウスを建てるための土地確保の際にも、JAの橋渡しがありました。京丸園と隣接する土地の所有者が離農を考えているとの情報をJAが入手し、JAの支店長が自ら出向いて説得したのです。

「土地の話は個人同士だけでは難しい。情報、人脈、信頼のネットワークがあるJAならではの力でしょう」  融資を受けた鈴木さんは、新たなハウスを完成させました。栽培面積が増えて生産量も増加。「姫ねぎ」「姫みつば」「ミニちんげん」など農作物を安定的に出荷できるようになり、京丸園の経営基盤も固まりました。

京丸園 代表取締役 鈴木 厚志さん

販路開拓の厳しい現実に直面
JAの看板を使わせてもらおう

「家族経営では次の代まで農業を続けられない。そう考えて、40歳のときに会社を興すことを決めました」

それまで鈴木家の農園は祖父母、両親、そして鈴木さん夫婦6人の頑張りで成り立っていました。法人化を決めたのは、農業の担い手を増やし、安定的に生産を続ける基盤を作り上げたかったからです。

農園の法人化に向けて、まず取り組んだのが販路の開拓。つまものとして評価も徐々に高まりつつあった自社ブランド、「姫ねぎ」と「姫みつば」の販売強化のために、鈴木さんは自ら東京の市場に足を運びました。
しかし、直面したのは厳しい現実でした。個人では、市場関係者にほとんど話を聞いてもらえなかったのです。

その数カ月後、JAとぴあ浜松が同じ東京の市場を視察するとの情報を得て、鈴木さんは関係者に同行させてもらうことになりました。

「驚いたのは、大手卸会社の応接室に迎え入れられたことでした。JAの看板だけでこんなに違うのか。これを使わせてもらおうと思いました」

これまで京丸園では、地元の市場にも直接出荷していました。しかし、すべての農産物の販売をJAとぴあ浜松に委託することに決め、JAとの関係性を深めます。そして京丸園の強みを生かす生産体制の充実に注力したのです。

水資源にも恵まれ、日照時間も長い浜松。さらに東京にも近い地の利。その長所を生かす取り組みが、付加価値の高い農作物を育てるハウス水耕栽培でした。扱う農作物は収穫までの期間が短いのが特徴で、姫ねぎは収穫までわずか15日間。年間でほぼ17~20回ほどのサイクルになります。

最良の状態で出荷するため、生育状況や気候条件から逆算。計画的な管理を行うことで、安定的で高い品質の農作物の出荷が可能になりました。そして、生産性の拡大、収益の増加、安定経営の実現を視野に入れた時、鍵となるのが水耕培のためのハウスの増設だったのです。

未来につながる
農業を共にめざすパートナー

“未来予想図”を手に入れた鈴木さんは、2016年と2017年にそれぞれ約600坪の大型ハウスを増設しました。法人化スタート時と比較して売上高は3倍以上になり、順調に規模と収益の拡大につなげることができました。

「こうした成長は、ビジネスパートナーとしてのJAとぴあ浜松の存在なくして語れません」と鈴木さんは言います。

農業の専門知識を持つ営農アドバイザーが、害虫駆除など現場で生じた課題の相談に対応します。さらに必要に応じて、販売や融資など他部署の職員が連携してサポート。「姫ねぎ」や「姫みつば」などの種や苗を届けたり、作物の出荷を担うなど、細かい作業を含め多くのJAスタッフが京丸園を支えています。

「自分たちにないものを補ってくれる存在。それがJAだと気づきました。農場規模の拡大に応えて販路を開拓しようと、JAとぴあ浜松の販売担当者が積極的に各地の市場に働きかけてくれます。その姿を見ると、熱意を持った優秀な従業員を、全て自社でカバーするのは難しいと実感します」

京丸園はノウハウと人材を持つJAをパートナーとして選ぶことで、規模を拡大する時に立ちはだかる、いくつものハードルを乗り越えてきました。

高い品質の農作物を安定供給するため、計画的な出荷を実現。その結果として、京丸園では従業員が計画的に休みを取ることも可能になりました。家族農業から法人経営へ、大きくかじを切った今、「ビジネスとして成立する農園経営を実現することで、従業員が安心して働き続けられる環境を整えたい。それが私の願いです」と、鈴木さんは未来を見据えて語ってくれました。

水耕栽培のハウスで作物の様子を見る京丸園 代表取締役の鈴木厚志さんと、JAとぴあ浜松 営農アドバイザーの鈴木由賀里さん
京丸園株式会社
京丸園株式会社
住所:静岡県浜松市南区鶴見町380-1
電話:053-425-4786
URL:http://www.kyomaru.net
主な作物:姫ねぎ、姫みつば、ミニちんげんなど
耕地面積:2.6ha 
従業員:89人(内パート75人)

JAとぴあ浜松
“事業間連携”を強めて農家の夢の具現化に挑む

“融資”よりも“夢”を追おう!
職員たちの発想の転換

京丸園の厚い信頼を受けてタッグを組むJAとぴあ浜松。この結びつきの要となっているのが、営農アドバイザーの存在です。

JAとぴあ浜松では2006年以降、地域農業の活性化に向けて業務を見直し、自己改革の推進に力を注いできました。農家の生産コスト削減に貢献する購買事業の革新や、販売事業を強化する改革などの取り組みです。農家を訪問し、生産技術指導や農業経営の支援をする役割を担う営農アドバイザー制度もその一つです。

「京丸園さんには週に1度は顔を出し、月1回のスタッフ会議にも参加しています。現場の今を共有し、生産者の課題を知ることも大きな役割。栽培や技術など私自身の専門分野だけでなく、他の部門の担当者とも情報を共有。販売や金融に関する問題にもスピーディーに対応できるように全力で向き合っています」と、担当する営農アドバイザーの鈴木由賀里さん。

実はJAとぴあ浜松は自己改革を進める中で、大きな壁にぶつかっていました。地元の金融機関が農業融資に参入する中、JAとしても危機感を覚えて農業融資への取り組みを強化。しかし、生産者に尋ねても融資への要望はわずか2件しかありませんでした。ショックを受けた職員は話し合いを重ね、生産者の立場にもっと寄り添うことを決めました。生産者と接する機会が多い営農アドバイザーが、単に資金ニーズを聞くのではなく、経営者の“ 夢” や“希望” を聞くことにしたのです。その結果、生産者からさまざまな声が上がり、情報が集まり始めました。

「この取り組みを支えたのが、JAとぴあ浜松内の“事業間連携”でした。JAでは農家への営農指導や金融、農畜産物の出荷、販売など、さまざまな事業を行っています。それぞれの事業を担う部門が個々に動くのではなく、互いに情報を共有し、農家の課題解決のために総合的なアプローチを行うことにしたのです。そのために営農部と融資部では、合同会議や意見交換会を積極的に実施。日常的な交流を深め、営農アドバイザーがくみ上げた農家の夢や希望を共有することで、その実現へとつなげていきました」と、JAとぴあ浜松の渥美保広常務理事は振り返ります。

JAとぴあ浜松 営農アドバイザー 鈴木 由賀里さん
JAとぴあ浜松 常務理事 渥美 保広さん

意識の変化が農業融資の伸びと
地域経済活性化に結びつく

生産者が描くさまざまな未来。例えば農地を拡大したいという夢を持つ農家には、営農アドバイザーに融資担当者が同行。生産者の資金面の相談に乗ることで、実現への手立てを共に考えます。そして変化に消極的だった個々の農家の意識が徐々に変わり始めます。

この変化は農業融資に現れています。取り組みを始めた2011年を境に、農業融資の新規実行が前年度と比較して約2倍となり、その後も着実に件数、金額が上昇してきました。

さらに2014年から、JAとぴあ浜松は単独で『農業振興および担い手支援事業』として年間2億円を上限とする支援を実施。面積にして東京ドーム2.5個分に相当する12haの農業用ハウスが増えるなど、地域農業の活性化に大きな効果を発揮しています。

この実績を踏まえ、2018年からはさらに規模を拡大させた第2次支援事業が計画されています。今、浜松では農業融資や支援を基盤に、多くの生産者が“夢”や“希望”の実現に取り組んでいます。

とぴあ浜松農業協同組合
住所:静岡県浜松市東区有玉南町
   1975番地
電話:053-476-3111
URL:http://jatopia.ja-shizuoka.or.jp/
組合員数:78,321人
     (正組合員24,006人 /
     准組合員54,315人)
職員数:1,449人 ※2017年3月31日現在

出荷の現場から
ブランド力が強み高品質・安定供給で市場の信頼に応える

東京青果株式会社

徹底した管理体制で計画出荷を実現京丸園の熱意が伝わってきます

私たち青果市場の卸売業者が求めるのは、品質と量の安定。加えて、季節や行事によって消費が高まる需要期には出荷量を増やしていただくことも重要です。京丸園とは長いお付き合いですが、この全てにおいて、信頼できる取引をさせていただいています。

ハウスで育てられる水耕栽培は、露地物などの野菜と違い、一日単位で計画的に生産を増やしたり、減らしたりすることが可能です。しかし、そのためには徹底した品質管理や、きめ細かい計画性が重要。高品質を維持しながら、計画的な出荷ができることが、京丸園の強さだと感じています。

感心させられるのが経営への意欲の高さです。京丸園では年に2回、現地で市場関係者やJAの担当者を集めて会議を行います。外部の意見を聞きながら、品質や規格、生産計画などについて話し合うのです。参加した時に、京丸園からも厳しい要望をいただくこともありますが、このような緊張感があればこそ、信頼できる関係が築けるのです。

生産者の思いをくみ取り、多くの方に農作物を届けるのも、私たちの役割と考えています。特に和食を彩るつまものは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、外国の方たちにも触れてほしい、日本の魅力ある食材の一つです。京丸園の「姫ねぎ」「姫みつば」なども販路拡大のチャンスを迎えています。

東京青果株式会社 野菜5事業部 係長 山田 千尋さん
箱づめされて出荷される「姫みつば」

株式会社 嶋和

毎日変わらぬ品質の高さ自信を持ってお客様に届けられます

当社は東京都の大田市場で、青果仲卸業者として、日本全国から集まるさまざまな野菜を扱っています。私はつまものを担当しているのですが、お客さまは高級青果店やデパート、ホテル、レストランなど。また納品業者経由でも寿司店や割烹(かっぽう)、和食料理店などからの注文を受けています。

和食などの彩りに欠かせないつまものとして、芽ねぎは定番商品の一つです。芽ねぎの産地は複数あるのですが、京丸園さんを指名して「姫ねぎ」を仕入れられるお客さまが多くいます。全国的に見ても、京丸園の「姫ねぎ」は芽ねぎのシェアの8割ほどでしょうか。1カ所の生産者がつくる農産物としては珍しく、圧倒的な存在感を持っています。

この人気を支えているのが質の素晴らしさ。京丸園の「姫ねぎ」の魅力は、1本1本が先端までスッと伸びた見た目の美しさです。毎日見てもその姿は変わらず、品質的に、これ以上のものはないと感じています。毎日、安定した量で出荷されるので、仲卸業者としても安心してお客さまに提供できます。

つまものとしてだけでなく、寿司店では握りのネタとして使われたり、焼肉店で肉に巻いて食べたりと、味と香り、歯ごたえを楽しむ味わい方も広がっているようです。最近は一般のスーパーからの引き合いもあり、家庭の食卓にも少しずつ浸透していると感じています。

株式会社 嶋和 営業部取締役 寺西 治久さん
主に青果を取扱う大田市場。都内の市場の一つ

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